橘玲の世界投資見聞録 2013年11月28日

バチカン銀行と陰謀論者ロベルト・カルヴィの死の謎
[橘玲の世界投資見聞録]

 カルヴィの死体は、足首が川の水にかかる状態で発見された。フリーメーソンの古いしきたりでは、結社の秘密を漏らした者は吊るし首にして、死体を潮の干満に洗わせるという。スーツに入っていたコンクリート塊や煉瓦は、石工を起源とするフリーメーソンの隠喩だという話もまことしやかに囁かれた。

発見直後のカルヴィの死体  写真:TopFoto/アフロ

 だが自殺説にも有力な反論がある。

 カルヴィの検死をした著名な医師は、死因は頸部の圧迫による窒息で、他の場所で殺されて現場に運ばれたのではないと断言した。現場の足場はきわめて不安定で、抵抗する人間を抱えてロープに吊るすのは不可能だが、カルヴィの身体からは睡眠薬のような薬物はなにも検出されなかった。

 ロンドンでの最初の裁判では、陪審員は専門家の証言を重視してカルヴィの死因を自殺と判定した。だがその後、自殺説に疑問を呈するさまざまな状況証拠が明らかになったことから、異議申し立てによる再審ではオープン・ヴァーディクト(判定できず)とされた。

死の謎を解く3つの推論

 カルヴィの死の謎を解く最大の鍵は、彼がロンドンで行なおうとしていた起死回生の「取引」にある。

 アンブロジャーノ銀行を救済するには10億ドル近い資金が必要であり、当時、これだけの出資ができる投資家は限られていた。

 投資家候補のひとつは、70年代の石油危機で巨額の利益をあげたアラブの王族だ。しかしこれには、ムスリムの彼らにとってカトリックの銀行を支援することになんの意味があるのか、という疑問がある。

 カルヴィが接触したとされるもうひとつの組織は、カトリックの民間団体オプス・デイだった。ダン・ブラウンの『ダ・ヴィンチ・コード』で一躍有名になったこの“秘密結社”は、ホセマリア・エスクリバーにより1928年にスペインで創設された。

 「世俗社会での職業生活を通じて自己完成と聖性を追求する」ことを旨とするオプス・デイは、保守的で富裕なカトリック信者を中心に世界的な組織へと成長した。彼らの悲願は、創設者エスクリバーを列聖することと、たんなる在俗団体から法王に直接進言し、指示を仰ぐことのできる高位聖職者と同等の地位まで組織を格上げすることだった。

 とはいえ、オプス・デイにも倒産しかけているアンブロジャーノ銀行を救済する理由があったかは疑わしい。目標を達成するには、財政難のバチカン(法王)に直接、資金提供した方がはるかに効果的だからだ。事実、82年11月に法王ヨハネ・パウロ2世によってオプス・デイは特別資格を与えられ、2002年にエスクリバーは死後30年という異例の速さで聖人とされた。

 その後の警察の調査で、カルヴィの失踪を手助けしたフィクサーのカルボーニの口座に、アンブロジャーノ銀行から2000万ドルが振り込まれていることがわかった。またカルボーニの通話記録から、このあとさらに5000万ドルが振り込まれる予定だと述べていたことも確認された。

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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