橘玲の世界投資見聞録 2013年11月28日

バチカン銀行と陰謀論者ロベルト・カルヴィの死の謎
[橘玲の世界投資見聞録]

 2000万ドルというのは当時の為替レート(1ドル≒220円)で44億円で、物価水準を考えればとてつもない大金だ。これは「取引」のための前金と考えられているが、それが誰の手に渡ったのかカルボーニは一貫して供述を拒否している。唯一確かなのは、その「取引」が失敗したことだ。

 カルヴィの死の謎はいまだ闇のなかにあるが、ここから3つの可能性が考えられる。

 ひとつは、「取引」は実際に進行していたがなんらかの理由で頓挫してしまったという可能性で、カルヴィは絶望して自死を選んだのかもしれない。

 もうひとつは「取引」が最初から詐欺だった場合で、騙されていたとわかったときの衝撃が自殺の原因になったとしても不思議はない。

 だがカルヴィの性格を考えると、騙されたまま泣き寝入りするより2000万ドルを取り戻そうとするにちがいない。このとき、大金を受け取った人間はカルヴィを殺してすべてを闇に葬るじゅうぶんな動機を持つことになる。

 もちろんこれ以外にも、カルヴィの死にはこれまでさまざまな解釈が現われては消えている。マフィアやフリーメーソン(P2)以外に、CIAやKGBの名前があがったこともある。

 カルヴィの長男は、父の証言などから最後の取引相手はバチカンだったと強く主張している。カルヴィは、これまでの秘密をすべて暴露すると脅してバチカンに銀行破綻の責任を取らせようとしていた。そのため、「取引」と称してロンドンに呼び出され殺されたのだという。

 「陰謀論」によって目くるめくような成功を収めた銀行家は、「陰謀論」に囚われて破滅することになった。その死因をめぐる争いは今後も決着がつかないだろうが、だからこそいまでもひとびとの想像力をかきたてて止まないのだ。

参考文献:ラリー・ガーウィン『誰が頭取を殺したか――P2スキャンダルと法王庁』(新潮文庫)

 

 <執筆・ 橘 玲(たちばな あきら)>

 作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 究極の資産運用編』『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券編』(以上ダイヤモンド社)などがある。ザイ・オンラインとの共同サイト『橘玲の海外投資の歩き方』にて、お金、投資についての考え方を連載中。

 
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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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