セブン&アイとイオン、ローソンとファミリーマート、J.フロントリテイリングと三越伊勢丹……長年の競争の結果、勝ち残った企業。これらの雌雄を決する戦いが続くと同時に、インターネットネット通販という新業態の参入企業が現われ、今まさに展開されている流通最終決戦の行方を追う。

 アパレル通販サイト「ゾゾタウン」を運営するスタートトゥデイが10月末から提供を始めたスマートフォン用アプリ「WEAR(ウェア)」をめぐり、同社と一部の商業施設との間で対立が強まっている。

 スタートトゥデイの前澤友作社長は「なるべく早い段階でウェアの500万ダウンロードを達成したい」との目標を掲げるが、これに対してルミネの新井良亮社長は「ウェアが普及すれば業界として大打撃を受ける」と危機感を高めている。

 ウェアが注目されている理由は、「バーコードスキャン機能」と呼ぶ仕組みにある。

 ユーザーが店舗で気になった商品を見つけた際、スマホでウェアを立ち上げ、値札についているバーコードをスマホで読み取ると、その場で商品情報やさまざまなコーディネート画像を見ることができる。

 また、悩んだ末に店舗での購入に至らなくても、閲覧履歴を残しておくことで、じっくり考えた後、いつでもどこでもスマホを使ってブランドのECサイトかゾゾタウンから商品を購入できる。

 サービスを開始した10月末以降、「数日でダウンロード数は10万を超えた」(スタートトゥデイ)と、すでに多くのユーザーの支持を集めている。

 ウェアを使うメリットがあるのはユーザーだけに限らない。

 アパレルブランド側にとっても、店頭でさまざまなコーディネート画像を見せることで客の購買意欲を高めることができる。また、店頭で購入に至らなかった客がインターネットで購入することは、販売機会ロスを減らすことになる。

 店頭の販売員は個人単位で公式アカウントを持つことができるため、自らもコーディネート画像を投稿することが可能だ。中には9000人ものフォロワーを抱える「カリスマ店員」も出てきており、こうした販売員による情報発信はブランド価値の向上や集客にもつながる。

商業施設が恐れる
ショールーミング

「当社が入居している商業施設のほとんどから〝ウェアの導入はやめてくれ〟と言われている」(アパレル販売大手)

 各社がウェアを嫌う理由は、「ショールーミング」への懸念にある。

 ショールーミングとは、店頭で実物の商品を試した後、ECサイトでより安価な商品を探して購入する消費者の行動のこと。すでに米国では大きなトレンドになっている。国内でもネット通販市場は、年率1割超の成長が見込まれており、さらに近年のスマホの普及によって、ショールーミングが広がるのは時間の問題といえる。

 だが、商業施設にとっては死活問題となる。テナントから得る賃料は、通常、固定額に加えて、売上高に応じた歩合である。店舗に来た客が、店頭で買わずにネットで購入すれば賃料収入は下がることになる。

 また、「接客しても購入には至らず、ネットで買われてしまうのが当たり前になれば、販売員のモチベーションは下がり、当社の最大の強みが失われてしまう」(新井ルミネ社長)との懸念もある。

 商業施設各社の反発により、スタートトゥデイは、利用を許可した施設内でしか使えないようにする「チェックイン機能」を追加するなど、ウェアの機能の一部修正を余儀なくされた。

 セレクトショップなど約200ブランドが参加したものの、テナントが集まる商業施設で参加表明したのはパルコの一部店舗のみ。渋谷や池袋などの4店舗で約半年間、実験的に導入した。

 パルコはウェアを導入した理由について、「店頭を訪れるウェアユーザーが増えることで、接客次第で売り上げを拡大できる」(林直孝WEBコミュニケーション部長)と語る。さらにスタートトゥデイ側の配慮も決断を後押しした。パルコの商業施設内でウェアを使った人がネットで購入した際、スタートトゥデイは商品売り上げの一部をパルコへ手数料として払う仕組みを導入した。

「今後も多くの商業施設との間で、事業の仕組みや金銭面などで柔軟に話をしていく」(前澤スタートトゥデイ社長)と粘り強く交渉を続ける構えだ。

流通各社が乗り出す
オムニチャンネル

 ショールーミングの普及が懸念される中、流通各社は自らもEC事業を強化し始めている。

 ルミネでは今年9月末、自社ECサイト「アイルミネ」をリニューアル。スマホサイトを開設して、いつでもどこでも買えるようになった。ショップ販売員によるコーディネート画像も充実させ、一部のショップについては店舗の在庫状況を確認できるようになった。