習仲勲に染まった
北京の空気

 10月15日、北京大学キャンパス内にある書店を歩いていると、同位置に丁寧に並べられている4冊の本が目に入り込んできた。『毛沢東伝』、『周恩来伝』、『トウ小平時代』(トウの文字は「登」におおざと)、『習仲勲伝』である。

 共に1976年に他界した毛沢東、周恩来両氏の伝記は以前から存在しているもので、今になって特別宣伝されているというわけではなかった。

 『トウ小平時代』(2013年1月中国にて簡体字版が出版された)は、ハーバード大学教授のエズラ・ヴォーゲル氏が、外国人学者としてトウ小平の生涯と改革開放プロセスにおける役割を描いたものだ(参考記事)。

 “18党大会(2012年11月)後、全人代(2013年3月)前”という政権交代中に出版された同書簡体字版は、習近平総書記が独自のスタイルでガバナンスを進めようとするなかで、改革開放の意義を、その総設計師であるトウ小平という人物像から再認識しようという位置づけで、中国共産党内では捉えられた。

 そして『習仲勲伝』である。約20年という膨大な執筆・編集時間を経て、2013年8月、中央文献出版社という共産党直属の出版社より上下巻が刊行された。

 習仲勲氏(1913~2002年)は習近平国家主席の父親であり、文化大革命前の1959年には国務院副総理に、文革後の1978年には広東省共産党委員会第一書記に任命された。1981年には中央書記処書記に任命され(翌年政治局委員選出)、党中央の日常業務を統括するミッションを全うした。

 書棚の主役が最後の『習仲勲伝』であることに疑いはなかった。

 他の三冊は“引き立て役”であり、深読みすれば、毛沢東、周恩来、トウ小平と同列に扱われている光景に、私は関心をそそられた。

 それもそのはずだ。2013年10月15日は習仲勲氏の生誕100周年記念日であり、全国各地で盛大な祝行事が展開されていた。特に、習仲勲氏の生まれ故郷で、中華人民共和国建国前に同氏が“革命根拠地”を創設した陝西省、文化大革命後改革開放をリードした広東省では、座談会などの形式を通じてあらゆるイベントが開催されていた。

 その他、国営中央電子台(CCTV)が習仲勲氏の生涯を描いたドキュメンタリー計6回分をゴールデンタイム時に放映するなど、メディアも『習仲勲生誕100周年』一色であった。

 新華書店などの大型書店に足を運べば、入り口の最も顕著な場所に『習仲勲伝』が山積みされていた。まさに中国全土が習仲勲一色に染まり上がった空気を、私は首都北京で感じていた。