橘玲の日々刻々 2013年12月10日

日本の美術界は「腐った楽園」
[橘玲の日々刻々]

 その一方で、「芸術」に憧れるひとたちはいつの時代も一定数います。退職後に趣味で書を始めたひとは、せめていちどくらい日展に入選したいと思うでしょう。そして有力な会派に入り、審査員をしている“先生”の指導を受け、さまざまな名目で謝礼を払います。日展というのは、芸術では食べられなくなった芸術家の集金システムなのです。

 こうした商売の仕組みは、美術学校も同じです。美大やその受験予備校は、芸術に憧れる生徒から高い授業料をとって、そのお金を仲間内で分配します。生徒の学費は、芸術に夢を託した親が払います。美術学校の教員が売っているのは“芸術という幻想”で、日本国内では一流とされる美大の教授でも世界の美術界ではまったくの無名です。

 日本の美術業界のこうした構造を歯に衣着せずに批判したのが現代美術の村上隆氏で、「エセ左翼的で現実離れしたファンタジックな芸術論を語りあうだけで死んでいける腐った楽園」と形容しました(『芸術起業論』)。「芸術家とは芸術によってカネを稼げる人間のことだ」とする村上氏が、日本の美術界で嫌われるのも当然です。

 日展は、「内閣総理大臣賞」のような国家の権威を利用して大規模なビジネスを行なってきました。師弟関係で部外者を排除し、受賞歴によって階級が上がっていくムラ社会にあるのは、仲間内の自己満足(マスターベーション)だけです。

 開かれた世界(市場)との回路を閉じてタコツボ化した組織は、必然的に腐っていきます。その気になって探してみれば、あなたのまわりにも同じように「腐った楽園」がいくらでも見つかるでしょう。

『週刊プレイボーイ』2013年12月2日発売号

 

 <執筆・ 橘 玲(たちばな あきら)>

 作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 究極の資産運用編』『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券編』(以上ダイヤモンド社)などがある。ザイ・オンラインとの共同サイト『橘玲の海外投資の歩き方』にて、お金、投資についての考え方を連載中。

 
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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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