「歴史を作り、伝説を作ったと思う」

 セ・リーグ優勝を決めた時、巨人・原辰徳監督はお立ち台の上で、こう語った。

 今季の巨人は、この言葉通りの快挙を成し遂げた。首位阪神につけられた最大13ゲーム差をひっくり返しての大逆転優勝。これは「ミラクル」といわれた96年長嶋巨人の11.5ゲーム差を超えるセ・リーグ新記録であり、日本プロ野球史でも63年西鉄の14.5ゲーム差に次ぐ2位の記録だ。

 宿敵といわれる巨人と阪神の対決。しかも終盤は緊迫感あふれるデッドヒートになった。ここに記録も絡んでいるのだから、プロ野球としてはこれ以上ないドラマである。しかし、その割には世間の反応は今ひとつだった。

 たしかに視聴率は上がった。天王山といわれた9月下旬の3連戦は第1戦=13.1%、第2戦=12.0%、第3戦=13.2%。最後の直接対決となった10月8日の試合は15.8%と今季最高の視聴率を記録した(ビデオリサーチ調べ・関東)。だが、巨人戦の年間平均視聴率が20%を超えていた10年ほど前に、こんなドラマが起きたら、30%近くに跳ね上がり、巷はこの話題で持ちきりになっていたはずだ。生活用品の値上げに株価の暴落など、不安なことだらけのご時世でそれどころじゃないのだろうが、だとしても世間のプロ野球に対する反応は冷ややかになる一方だ。

 この事態には球界も危機感を持っており、日本プロ野球機構も各球団も人気回復のための策をいろいろと打ち出している。

 だが、そうした対応策を取るだけでなく、もっと本質的な部分、「試合は入場料や時間を費やして観る価値のあるものか」、「選手は見る者に満足を与えているか」を問い直してみる必要があるのではないだろうか。

熱気あふれる応援団席で感じる
選手との「温度差」

 筆者は最近、観戦に行った時は外野の応援団の近くに座ることにしている。この2シーズンで12球団の応援団席を体験した。球団によってそれぞれ応援方法が違うし、ファン気質や熱気も微妙に異なる。応援するチームの中でも、熱烈に支持されている選手と比較的冷たく見られている選手がいる。応援団の近くに身を置くと、そういうことが分かって面白いからだ。

 驚かされることも多い。彼らの応援に注ぐエネルギーだ。大声で応援コールを叫び、プラスチック製の応援バットを打ち鳴らすのは、ストレス解消になるのだろう。その上で応援するチームが勝つのは大きな喜びだ。といって一銭の得にもならない。実利とは異なる価値観に大きなエネルギーを注げることに驚きを感じるのだ。

 そんなことを考えながら試合を観戦していると最近、感じることがある。応援団席とグラウンドの「温度差」だ。

 応援しているチームが勝っている時はいい。得点が入れば応援団席は大騒ぎ。殊勲打を打った選手が守備位置につくと、コールが起こり、それに応える選手も嬉しそう。ファンからすればチームと一体になった感覚が味わえる至福の時だ。