橘玲の世界投資見聞録 2014年1月9日

年頭に当たって考えた2014年の注目ポイント
金利上昇、ユーロ統合、中国のバブル崩壊…
[橘玲の世界投資見聞録]

米国株価は世界経済といっそう連動

 アメリカ経済は2012年末に「財政の崖」問題で「国債がデフォルトする」「ドルが暴落する」などといわれていた。この問題はオバマケア(医療保険制度改革)をめぐって再燃し、昨年10月には政府機関閉鎖という異常事態を招いたが、心配されていた市場への影響はなく米国株は史上最高値を更新する活況となった。

 これについてはFRB(連邦準備制度理事会)のなりふりかまわぬ量的緩和政策や「シェール革命」によるエネルギーコストの低下などさまざまな要因があるだろうが、より構造的な変化として、米国の株価と米国経済のリンクが弱まっていることがある。

 米国の株式市場を時価総額でみれば、アップル、マイクロソフト、アマゾン、グーグルなど、上位に並ぶのはグローバル企業ばかりだ。彼らはたとえアメリカの国内経済が低調でも、世界経済が拡大しているのなら、世界全体から収益を得ることができる。そう考えれば、アメリカの失業率が高くても株価が下落せず、金融緩和が持続して金利が下がるとの思惑で株価が上昇したのは理にかなっている(低金利で資金調達しながら世界市場から利益を得られるし、収益還元法でも金利低下で理論株価は上昇する)。もちろんアメリカは世界最大の市場だから、国内景気がよくなれば株価はさらに上がるだろう。

 経済のグローバル化の進展で、株式市場と一国の経済を結びつける理屈は意味を失った。米国の株価は世界株指数とほぼ同じ動きをしており、アメリカ国内の景気だけを見ていても株式市場の実態はわからない。逆にいえば、アメリカ市場に投資することは世界市場に投資することでもあるのだ。

何世代かかけて欧州はひとつの「国」に

 ヨーロッパ経済はギリシア危機があとを引き、1年前は誰もが暗い見通しを語っていた。3月にはユーロ加盟国であるキプロスが金融機関の不良債権で財政破綻し、EUの支援と引き換えに大口預金者の資産が没収された。このとき、ドイツの株価が史上最高値を更新し、1ユーロ=140円を超えるユーロ高になると予想できたひとはほとんどいなかっただろう。南欧の政治・経済は相変わらず不安定だが、ECB(欧州中央銀行)がユーロの守護神となったことで国債価格は安定した。

 今年になってバルト3国のひとつであるラトビアがユーロを導入したように、周辺国のユーロ参加もふたたび加速してきた。実質的なユーロ圏は東ヨーロッパから北アフリカの一部にまで広がっており、この流れはこれからも変わらないだろう。自国通貨をユーロにすることはできても、そこから脱落して自国通貨に戻すのはものすごく大変なのだ。

 だがその一方で、財政がばらばらのまま通貨だけを統一するというユーロの構造的な欠陥は解決していない。ユーロ圏の主要銀行の管理をECB主導で一元化する銀行同盟も、加盟国の恣意的な国債発行を制限するユーロ共同債も実現は容易ではなく、大きな破綻はないものの景気の低迷と高い失業率は続くだろう。移民排斥を求める極右政党の台頭や独立(自治権獲得)運動などの政治的な混乱を起こしつつ、何世代かかけて欧州はひとつの「国」になっていくのではないだろうか。

 ちなみに、ベルギーの南北問題やスペインのバスク・カタルーニャ、あるいはイギリスのスコットランドで「独立」運動が活発化しているのは、ユーロ(欧州)という枠組みをひとびとが受け入れるようになったからだ。より大きな秩序(帝国)が姿を現わしたのなら、もはや国家の枠組みにとらわれる必要はない。独立を目指すひとびとはEUとユーロを支持している。

 それに対して極右と呼ばれる政治勢力は、シュンゲン条約でEU域内の移動が自由になったことで移民が流入し、失業率の増加や治安の悪化につながっていると主張している。“なわばりバイアス”を利用したこうした主張はつねに一定の支持を得るだろうが、EU解体を招くほどのちからは持たないだろう。

 ヨーロッパを旅行していて感じるのは、人種の多様化と同時に、ひとびとがバイリンガル(マルチリンガル)化していることだ。いまでは母国語と英語のほかに、フランス語やドイツ語、イタリア語などを(片言でも)話すひとは珍しくない。ヨーロッパ社会における「格差」とは、母国語しか話せないモノリンガルな層と、マルチリンガルなコスモポリタン層の間にあるのかもしれない。

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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