このディレクターは、40代のディレクターが数人いる中で1人だけ、局から指名が来なかった。「指名」とは、テレビ局のプロデューサーが「ディレクターの〇〇さんにつくってほしい」と、そのプロダクションの社長らに直接依頼することである。つまりは、番組制作能力が低い。

 指名を受けることのないこのディレクターは、山口光彦(仮名)という。三笠に脅威を感じていたからなのか、周囲からも同情の声が囁かれるほどに、彼をいじめ抜いた。

 三笠はこう振り返る。「僕を鍛えるという名目で、しなくてもいい仕事を大量にするように命じてきた。山口さんはそれを笑いながら、皆に話していたみたい」

自分が知らないうちに
外堀が埋められている気がした

 三笠は見返したい一心で、筆者が教える専門学校に入学した。大手の制作会社に転職するために、筆記試験科目である「作文」の力を上げようとしたのだ。制作プロダクションにいつまでもいたのでは、生活のめども立たない。

 土壇場になり、三笠は隙を与えてしまった。大手番組制作会社の中途採用試験で内定を得た後、中途半端な引き継ぎのまま、プロダクションを辞めたのだ。

 さらには、新天地で早く企画を実現がしたいがために、プロダクションにいる頃に温めていた企画を十数本、持ち去った。三笠が考え、調べ、まとめたものだが、それらは勤務時間中に行ったことである。

 山口は三笠の退職後、この件を取り上げ、話を膨らませ、職場で吹聴した。あろうことか、「三笠は企画だけではなく、会社のお金も持ち出した」と囁かれるようになっていた。当然、事実無根の誹謗中傷である。

 大手番組制作会社で三笠をいじめる内田は、前職のこのトラブルを耳にした。業界は狭い。そこで、三笠がいないところで話し始めた。「あいつはプロダクションの頃、お金を盗んだ」「前職では解雇になっていた。会社のお金を盗んだからだ」……。むろん、いずれも誹謗中傷である。