橘玲の世界投資見聞録 2014年2月11日

空前の観光ブーム・モロッコで5カ国語を操る
ベルベル人ガイドが生き残るための才覚
[橘玲の世界投資見聞録]

5カ国語を操り、「会社内会社」を経営

 ベルベル系メクネッサ族が10世紀頃につくった町メクネスに生まれたヨセフは、大学を卒業すると無許可で個人ガイドを始め、スペインからの観光客を案内していた。モロッコとスペインはジブラルタル海峡を挟んで目と鼻の先で、モロッコ側にはいまでもセウタとメリリャいうスペインの飛び地が残っている。これが「歴史問題」として両国の緊張を招いているが、それとは関係なく毎年スペインからたくさんの旅行者が訪れるのだ。

 ベルベル人であるヨセフの母語(第一言語)はベルベル語だが、学校では公用語であるアラブ語しか使ってはならなかった(最近になってようやくベルベル語の使用も認められるようになった)。フランスの旧植民地であるモロッコの第一外国語はフランス語で、行政機関などで広く使われている。大学を出たベルベル人はベルベル語、アラブ語、フランス語のトリリンガルで、ヨセフはそれにスペイン語を加えて4カ国語を話すようになった。

 その後、アメリカからの旅行者が増えたことで独学で英語を学び(要は旅行者から教えてもらったのだ)5カ国語を操れるようになると、ヨセフは叔父が経営する旅行会社に入社した。そこは社員30人ほどの会社だが、ヨセフはたんなる従業員ではなく「会社内会社」を経営することになる。

 私がたまたま見つけたのはヨセフが自分でつくったホームページで、会社名も「親会社」とは別だった。問い合わせはヨセフ個人のメールアドレスに送られ、ホテルやドライバーの手配もすべてヨセフが行なう。叔父の旅行会社に手数料を払って観光業のライセンスを取得し、自分の才覚でビジネスを行なっているのだ。

 ヨセフが運転中にひたすら携帯でしゃべり続けているのは、予約客のホテルや車、ドライバーの手配のためだ。とくにクリスマスから新年にかけては、ヨーロッパから観光客が殺到する掻き入れ時なのだという(ヨーロッパでは新年をサハラ砂漠で迎えて日の出を見るのが流行しているのだ)。

 昼食の時間やホテルに着いてからは、ずっと携帯メールで返事を書いている。メールがそっけないのは一人で大量の返信をしなければならないからで、ペイパルのアカウントがホットメールなのは、会社ではなく個人でツアー料金を受け取るためだ。そんな話を聞いていて、ようやくいろいろな謎が解けた。ヨセフは自営業の社長みたいなもので、車の中が彼のオフィスなのだ。

 ちなみにモロッコではいまでも無認可のツアーガイドがたくさんいて、その方が料金を安くできる。その代わりあちこちで行なわれている検問で、「私はツアーガイドではなく、ただ外国から来た友だちを乗せているだけだ」と客と口裏を合わせなければならない。ヨセフがこれまでいちばん苦労したのは、個人旅行の若い女性客のときだという。いまだに伝統的な社会であるモロッコでは、妻や婚約者以外、女性と2人で車に乗ることは禁じられている。それで仕方なく、検問のたびにフィアンセの振りをしてもらったのだそうだ(これはこれで楽しそうだが)。


幸福の「資本」論|橘玲著 幸福の「資本」論 重版出来!
橘玲著

あなたの未来を決める「3つの資本」と「8つの人生パターン」。あなたが目指すべき人生は?
定価:1,650円(税込) 発行:ダイヤモンド社
購入はコチラ!
世の中の仕組みと人生のデザイン|橘玲のメルマガ配信中! 20日間無料 ザイでしか読めない!橘玲のメルマガ「世の中の仕組みと人生のデザイン」も好評配信中!
月額880円(税込)
いますぐ試す(20日間無料)
 

 

バックナンバー

»関連記事一覧を見る

海外投資必勝マニュアル&本

海外投資のノウハウが凝縮! ここで紹介しているコンテンツ、書籍はすべて、ネットから購入が可能です。さらに「海外投資実践マニュアル」は「海外投資を楽しむ会」の会員になれば割引価格で購入可能です。

作家・橘玲のディープなメルマガ
発売即重版決定! 橘玲の最新刊【幸福の「資本」論】発売!
橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
橘玲×ZAiONLINE海外投資の歩き方
作家・橘玲がメルマガ配信を開始!
subcolumn下影

ページのトップに戻る

本WEBサイトに掲載している全ての記事およびデータについて、その情報源の正確性・確実性・適時性を保証したものではありません。本サイトの提供情報を利用することで被った被害について、当社および情報提供元は一切の責任を負いませ ん。万一、本サイトの提供情報の内容に誤りがあった場合でも、当社および情報提供元は一切責任を負いません。本サイトからアクセス可能な、第三者が運営するサイトのアドレスおよび掲載内容の正確性についても保証するものではなく、このような第三者サイトの利用による損害について、当社は一切責任を負いません。また、併せて下段の「プライバシーポリシー・著作権」もご確認ください。