橘玲の世界投資見聞録 2014年2月20日

古代ローマ時代からひもとく、北アフリカのベルベル人の来歴
[橘玲の世界投資見聞録]

 シチリアから南イタリア、イタリア半島の東岸から南仏にかけて、各地の港に「サラセンの塔」と呼ばれる見張り台が残っている。これは南ヨーロッパの人々がムスリムの海賊の襲来に備えて建てたもので、危険を知らせる鐘が乱打されると住民たちは山岳部に逃げ、あるいは迷宮のような街の奥に身を隠した。サラセンの塔に触発されて、海賊を中心に紀元8世紀以降の地中海の変遷を描いたのが塩野七生の『ローマ亡き後の地中海世界』(新潮社)だ。

海に突き出した見張り台。クレタ島、イラクリオン   (Photo:©Alt Invest Com)

 南ヨーロッパの人々がムスリムの海賊を恐れたのは、金品だけでなく人間までさらっていくからだった。北アフリカの諸都市に連れて行かれたキリスト教徒たちは、男はガレー船の漕ぎ手などの奴隷として売られ、女はムスリムに改宗させられてアラブ人の妾になった。アラブ人と元キリスト教徒のあいだに生まれた子どもも奴隷として働かされた。

 南ヨーロッパから連れ去れ奴隷にされた男たちは、「浴場」と呼ばれる施設に収容されていた。これについて塩野は、北アフリカにはローマ時代の巨大な浴場の跡が残されており、それを奴隷収容所に転用したのではないかと推測している。

ローマの浴場跡。ここがキリスト教徒の奴隷の収容所に使われていたのか   (Photo:©Alt Invest Com)

 12世紀になるとヨーロッパに強大な王権が現われ、十字軍の遠征が行なわれるようになる。その頃になってようやく、北アフリカに膨大な数のキリスト教徒の奴隷がいることがひとびとの関心事になりはじめる。

 それを受けて、奴隷救出を目的とする救出修道会や救出騎士団などの民間組織が誕生した。彼らは各地の教会で寄進を募り、それを原資として北アフリカの奴隷を買い戻そうとしたのだ(その結果、奴隷が高く売れることがわかり、海賊の活動がさらに活発化することにもなった)。

 キリスト教徒の奴隷の実態は明らかになっていないが、研究者によれば、12世紀以降だけで50万人から100万人の奴隷が救出されたという。買い戻された奴隷の割合を100人に1人とすれば、ムスリムの海賊が跋扈するようになった8世紀からフランスがアルジェリアを植民地にして(1830年)海賊が消滅するまでの1100年のあいだに累計で5000万人から1億人が南ヨーロッパから北アフリカに連れ去られたことになる。このうちの2割から3割が女性だとしても、彼女たちは妾となって子供をもうけたのだから、この間に北アフリカにおける人種の融合は大きく進んだだろう。モロッコのベルベル人が南イタリアのひとたちとよく似ているのはこのような歴史があるからだ。


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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