ハードディスク駆動装置(HDD)市場は、テレビやDVDレコーダー、ビデオカメラなど家庭用機器向け用途が急成長し、年率14%で成長している。一方で、価格競争はますます熾烈化し、収益悪化に苦しむ日立製作所、富士通、東芝などのプレーヤーは、いよいよ再編に踏み切らざるをえない。

 「われわれが上納する利益が、いつまでも赤字事業の埋め合わせをする状況はいかがなものか」

 日立製作所グループのある上場子会社幹部は、こう不満を漏らす。「赤字事業」とは、日立グローバルストレージテクノロジーズ(HGST)が手がけるハードディスク駆動装置(HDD)事業のことだ。HDDは、サーバやパソコンなどに搭載される、大容量で、高速なデータの読み書きが可能な記憶装置である。

 日立は、2002年12月に、米IBMから2000億円超で同事業を買収。自社事業と合わせた売上高は今期6409億円に達し、世界シェア3位につける。だが買収以来、今期の見通し(▲368億円)も含めて、5期連続の営業赤字という厳しい状況だ。当時社長だった庄山悦彦会長の肝煎り案件だが、長引く不振にグループ内の批判も高まっている。

 HDDは近年、垂直磁気記録技術とTMR(トンネル磁気抵抗)素子適用という2つの技術革新を迎えた。HGST不振の背景には、この新技術へ移行する過程で、基幹部品である磁気ヘッドや磁気ディスクの歩留まり向上に手間取ったことや、そもそもIBMとの統合効率化が進まずコスト高になっていることがある。

 日立は昨年11月、経営計画で、2009年度に全社売上高営業利益率を現在の1.8%から5%に引き上げる目標を掲げた。売上高目標はないが、仮に11兆円として、5%に当たる5500億円の利益を積み上げるには、HDD事業の大幅改善か、売却の決断が必至だ。

 9月末に一部米メディアが「事業売却の方針を決定した」と報じた際、日立は「そのような事実はない」と否定した。だが、詳しくは後述するが、米買収ファンドを軸に、買収交渉は始まっている。