もともと「オレについて来い! 」というタイプでも「カリスマ性あふれるリーダー」というパーソナリティでもない、開発エンジニアとしてのキャリアを歩んできた30代のビジネスパーソンが、ある日突然、全社プロジェクトでリーダーに抜擢されてしまった。

しかも、その事業は国内最下位で、問題山積みの状況。「勝ち目のないビジネス」を担当することになったのは明白だった。

しかし、数年後、彼のチームは飛躍的に業績を伸ばすことになる。5000万円規模だった事業は300億円を突破し、世界トップクラスに。

あのスティーブ・ジョブズが憧れた世界最大のIT企業で、国内最下位だったLinux(リナックス)事業を数百億円規模のトップにまで拡大した、「伝説のマネジャー」がまとめた次世代リーダーシップ論『リーダーにカリスマ性はいらない』(KADOKAWA/中経出版)。「カリスマ性のない人」「リーダーに向かなさそうな人」こそ実践できるリーダーシップとはどんなものか?単行本未収録分を含め一部を特別公開。

リーダーは自席に部下を呼びつけるな。

「赤井さん、ちょっと、私のデスクまで来てください」

 電話は、新たに赴任した本部長からだった。急用だろうとすぐにデスクに行ったものの、とくに何か大きな問題があったわけではない。通常の仕事の依頼だったのだが、そのときのぼくは猛烈に違和感を覚えていた。

 社会人になって以来、ぼくは「上司から席に呼ばれる」という経験がなかったのである。 テレビや映画などでは、デスクにいる上司が「○○君、ちょっとこっち来て!」などと部下を呼びつけるシーンがよくある。

 日本企業ではよくある風景なのかもしれないが、エンジニアとして製品開発部門にいたころのぼくは、上司からそんなふうに呼びつけられたことも、呼びつけられている人を見たこともなかった。 部下に何か要件がある上司は、部下のデスクのところまでやってきて話すのが普通だと思っていたのである。

 ぼくが新卒で入社し、それから20年あまり勤めた企業は、米ヒューレット・パッカード社(HP)の日本法人だ。ご存じの方も多いと思うが、HPはプリンターやPCでは、世界市場シェア1位のメーカーであり、売上高13兆円、全世界で約35万人の従業員を抱える世界最大のIT企業の一社だ。

 スタンフォード大学を卒業したデビッド・パッカードとビル・ヒューレットが、1938年にHPを創業した場所となった小さなガレージは、現在、シリコンバレー発祥の地として、カルフォルニア州から歴史的建造物に指定されている。そのため、HPは、「シリコンバレーの父」とも言われ、あのスティーブ・ジョブスが熱烈にあこがれた企業なのだ。ジョブスともう一人のアップル創業者であるスティーブ・ウォズニアックとは、HPでアルバイト仲間として知り合っている。

 話を戻そう。当初はこの違和感がどこから来るかわからなかったのだ。