橘玲の日々刻々 2014年2月24日

「現代のベートーベン」偽装の作曲家は、
“自分マーケティング”の天才だった
[橘玲の日々刻々]

 人並み以上の野心だけはある若者が社会の最底辺から抜け出し、スポットライトを浴びるために思いついたのは差別を利用することでした。彼にとって幸運(もしくは不運)だったのは、都合のいいゴーストライターと出会ったことでしょう。無名の現代音楽の作曲家がアルバイト感覚でつくった大衆受けするクラシックは、“障害”と“被爆者”という魔法の言葉によって「奇跡の大シンフォニー」へと変貌したのです。

 5万円の懐石料理、50万円のブランドバッグ、500万円の高級時計というのは、原価からはあり得ない値段です。たんなる革製品にロゴがつくだけで値段が10倍になるのは、その背後にある物語(というか幻想)に付加価値があるからです。その物語は広く知られているので、ブランドを持つと周囲の評価が高まります。ひとびとがブランドを好むのは、お金で社会的な評判を買えるからです。

 凡庸な楽曲を美談で飾り立てると名曲に変わるのもこれと同じです。消費社会では、モノではなく物語が消費されます。ほとんどのひとはクラシック音楽に興味があるわけではなく、手っ取り早く感動を手に入れたいのです。

 「現代のベートーベン」は、“障害”や“被爆者”でマスコミを躍らせれば、音楽的な才能がなくても大きな成功を手に入れられることを実証しました。その意味で彼は、“自分マーケティング”の天才だったのです。

            『週刊プレイボーイ』2014年2月10日発売号に掲載


 

 <執筆・ 橘 玲(たちばな あきら)>

 作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 究極の資産運用編』『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券編』(以上ダイヤモンド社)などがある。ザイ・オンラインとの共同サイト『橘玲の海外投資の歩き方』にて、お金、投資についての考え方を連載中。

 
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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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