西サハラの砂漠に暮らす遊牧の民・トゥアレグ
北アフリカの原住民であるベルベル人について前回書いたが、じつはベルベル語を話すのは彼らだけではない。
[参考記事]
●古代ローマ時代からひもとく、北アフリカのベルベル人の来歴
ベルベル人のガイド、ヨセフの解説によると、モロッコに暮らすベルベル語の話者は大きく3つに分けられる。ベルベル、ノマド、トゥアレグだ(この三者には方言の違いがあるらしい)。
モロッコはアトラス山脈を境に南北に分かれ、地中海に面した北側はマラケシュやフェズ、カサブランカなどの都市がある農業地帯で、南にはサハラ砂漠が広がっている。
都市には支配民族であるアラブ系の住民が多く暮らし、郊外やアトラス山脈周辺に追われたベルベル人は、オリーブやデーツ(ナツメヤシ)などを育て、独自の言葉や文化を保持したまま各地に定住した。彼らがアラブ人の侵略から身を守るためにアトラス山麓につくった村がカスバ(城砦都市)だ。
それに対してトゥアレグは西サハラに暮らす砂漠の民で、ラクダに荷を積んでサハラ砂漠を横断する交易の民でもあった。

トゥアレグのイメージがもっともよくわかるのが、ベルナルド・ベルトルッチの映画『シェリタリング・スカイ』だ。モロッコのダンジール(タンジェ)に移り住んだアメリカの小説家ポール・ボウルズの小説を原作とするこの映画では、モロッコを訪れたアメリカ人女性が、夫を病気で失ったあと、トゥアレグの隊商とともに砂漠を渡り、若い男の囲い者となって彼らの村で暮らすことになる。
トゥアレグの男たちは、一枚の布を器用に頭に巻いて、頭部だけでなく鼻と口元を覆い、目だけを出したターバンにする。顔全体を隠すこうした衣装は、いまではイスラム原理主義の女性が身につけるブルカとして知られているが、実際に砂漠を訪ねると宗教とはなんの関係もないことがよくわかる。砂嵐が舞うなかでは、男であろうが女であろうが鼻や口を外にさらしていることはできないのだ。映画のなかでも顔を隠すのは砂漠を旅する男たちで、村で帰りを待つ女たちはブルカを身につけていない。実用から生まれたファッションだから、砂嵐のない場所では意味がないのだ。
ほんもののノマドライフとは?
砂漠でラクダとともに暮らすのがトゥアレグなら、ノマドは季節によって砂漠とアトラス山麓を往復する遊牧民だ。
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