コア・コンピタンス経営』『経営は何をすべきか』などマネジメントの本質を常に問い続ける経営思想家ハメルは、リーダーシップについて単純で明快な前提を示す。「権力がなくても人を導き、偉大なことを成し遂げる資質」を持っていることだ。そして権限を越えた成果を上げる真のリーダーには、8つの役割が求められるという。


 これまで、リーダーシップについて数多くの(何千冊もの)書籍が刊行され、多くの(何百万人もの)人がリーダーシップ研修を受け、膨大な(何十億ドルもの)金額がリーダーシップ開発に投じられてきた。だがそれでも、ほとんどの専門家は「リーダーシップを実践すること」と「官僚的な権限を行使すること」との違いを理解していない。

 リーダーシップについて議論する際には、自分には何の権限もない、ということを前提としなければならない。つまり、あなたに任されている職務権限は何もなく、あなたの「命令」に応えようとしない人を「制裁」することもできない。これを所与の条件として、他者をうまく動かして驚嘆すべき仕事を成し遂げることができるのならば、その人はリーダーである。それがうまくできないのであれば、その人は官僚ということだ。

 組織が真のリーダーシップによる優位を得るには、「権限を超えた功績」の比率を最大にするやり方を理解している人たちが、組織内のあちこちにいなくてはならない。わずかな権限でも何か大きなことをするのは可能だ、と信じる人たちだ。たとえば、世界最大の百科事典であるウィキペディアの創始者、ジミー・ウェールズを考えてみよう。ウィキペディアの普及に貢献した何千もの人々は、誰一人としてウェールズの部下ではない。しかし彼は「ソーシャル・アーキテクト」として、人間の持つ途方もないエネルギーを引き出して結集させるプラットフォームをつくり上げた。

 では、他者を引きつけて奮い立たせ、その力を増幅させるのは、どんな人物だろうか。

●先見の明がある人(Seers)
 未来を生きている人、「これから何が起こるのか」について説得力のあるビジョンを持っている人。私たち人間は、常に未来に目を向けている。そして、「次に来るブーム」にいち早く取り組んでいる人と組むことが大好きである。

●常識に挑む人(Contrarians)
 社会通念に束縛されず、他者を常識や思い込みから解放するために尽力する人。こうした自由な精神を持った思想家と一緒にいるのは愉快なものだ。それによって私たちは現状から解き放たれ、新たな可能性に意識を向けることができる。

●人々が集う基盤を設計・構築する人(Architect)
 人々の献身的な行動とコラボレーションを促進する仕組みを、巧みに構築する人。ソーシャルネットワークの技術を最大限に駆使することで、反対意見をちゃんと取り上げ、情熱によって結びつくコミュニティを築き、変革の力を解き放つ。