2011年10月のサービス開始からすでに無料会員が100万人を突破。受験生向け教育ビジネスとしては破格の安さ、月々980円という価格で既存の塾・予備校業界に切り込む。この安さを可能にしたビジネスモデルとは何か。責任者であるリクルート・マーケティングパートナーズ執行役員の山口文洋さんに聞いた。

 

スタートは、「すべてのまなびをすべての人々に届けたい」という思い

――まず受験サプリの仕組みから教えて下さい。

山口:受験サプリはオンライン予備校サービスです。生徒はいつでもどこでも好きな時間に好きな授業をオンラインで受講することができます。有料会員と無料会員がありますが、有料でも月々980円です。一般的に高校三年生が塾に通うと年間30~50万円かかりますが、受験サプリは1万円程度。

――確かに破壊的と言える価格設定ですね。どういう背景からこの事業を始めようと思われたのでしょうか。

山口:元々、私はリクルートの中で、進学事業の戦略担当でした。進学事業とは、高校生に対して、大学・専門学校の進路選択情報を情報誌・Webサイトで提供していくという事業です。しかし、これからの少子化やグローバルといった社会の多様化に向けて、今から3年ほど前に新たな市場・ビジネスモデルでの新規事業を生み出していく必要性を感じ、そのタネを探し始めました。

――事業のコンセプトはどのように考えていたのですか。

山口 文洋
(やまぐち・ふみひろ)

リクルート・マーケティングパートナーズ執行役員兼ネットビジネス推進室 室長 兼 ブライダル事業本部メディアプロデュース統括部 部長。
ITベンチャー企業にてマーケティング、システム開発を経験。2006年、リクルート入社。進学事業本部で事業戦略・統括を担当したのち、メディアプロデュース統括部に異動。社内の新規事業コンテストでグランプリを獲得し、『受験サプリ』の立ち上げを手掛ける。12年に統括部長に着任。13年から現職。

山口:スタートは、「すべてのまなびをすべての人々に届けたい」というアイディアです。最高の教育がすべて無料で提供される世界がきたら、出自に関係なくすべての人が平等にチャンスを得ることができ、その結果、進行する格差社会のデフスパイラルが止まるきっかけになるかもしれないと思いました。そこで、最初のステップとして年間30~50万円かかる予備校がタダもしくは格安になったらいいな、と考えました。

 私自身過去に受験・資格取得の勉強をしていた時に、テレビ授業で受講しておりました。そして「テレビ授業なのに授業料が高かったなぁ」と思ったことがきっかけでした。

 そこで、実際に全国の高校生や保護者の方に話を聞いてみることにしました。高校生・保護者に出会う中でわかったことは所得・地域から生じる受験勉強環境の格差です。家庭の経済的な事情で大学受験勉強をするに際して塾・予備校に通いたくても通えない高校生がいたり、また地方に住む高校生は大手予備校が近くにないので、どうしても都心の予備校にいるようなカリスマ講師の授業を受けることができません。都会の子を羨む高校生にも出会いました。結局、今の子どもたちは、格差社会を認識していて「塾に行きたくても親の収入を知っているので言えない」「都会の方が教育の質が高いからずるい。だから受験で失敗してもしょうがない」と所得や地域格差を感じて「あきらめ感」があることを感じました。