全米トップマーケターが語るマーケティング“再創造”戦略――米アドビ、アン・ルネスCMOAnn Lewnes
アドビ システムズ
シニアバイスプレジデント兼
CMO(最高マーケティング責任者)
アドビの企業ブランド、企業広報、世界規模での総合的なマーケティング活動を担当。2006年11月のアドビ入社以前は Intel Corporation のセールスマーケティング担当バイスプレジデントを務め、「Intel Inside」プログラムなど数々の画期的なキャンペーン活動を担当した。2000年にはAmerican Advertising Federationのアチーブメント殿堂入りを果たしている。
Photo by Toshiaki Usami

ビッグデータの有用性が高まり、ネット上の広告技術が進化するにともなって、企業マーケティングの手法は変化を加速させている。「デジタルマーケティング」の登場によって、過去50年のマーケティング手法の変化よりもこの2年の変化のほうが激しいとも言われる現在、この分野のソリューションで業界をリードするのが米アドビ システムズ(以下、アドビ)だ。「Photoshop」に代表されるクリエイティブツールで圧倒的に知られているアドビだが、ここ数年で大規模なM&Aを繰り返し、デジタルマーケティング分野でも製品サービスを広げ、いまや包括的なマーケティングソリューションを提供する企業へと転換を遂げた。

現在、デジタルマーケティング部門だけで年間10億ドル規模のビジネスを展開している。「クリエイティブ」と「デジタルマーケティング」はもはやアドビの両輪。その転換のきっかけの一つが、2006年にかつてインテルのセールス・マーケティング担当バイス・プレジデントを務め全米トップマーケターとして知られていたアン・ルネス氏をCMO(最高マーケティング責任者)に迎え入れたことにある。アドビのデジタルマーケティング戦略について、これからの企業マーケティングに求められる変化について、来日したアン・ルネス氏に話を聞いた。

マーケティング予算の74%をデジタルに投資するアドビ

 名実ともに新生・アドビの原点となったのは、09年に行われたオムニチュアの買収だ。18億ドルという巨費を投じて、同社のWebアクセス解析ソリューション「サイトカタリスト」を取得した。現在「サイトカタリスト」は「アドビ・アナリティクス」と名称を変え、アドビが提供する統合ソリューション「アドビ・マーケティング・クラウド」の根幹をなす技術へと発展している。

 シリコンバレーには「自分の犬のドッグフードを食え」(「自分が使いたくなるものを作れ」という意味で使われる)という言葉があるが、アドビがデジタルマーケティングの分野で業界をリードするに至った背景には、アドビ自身が「ファーストユーザー」の目線で、デジタルマーケティングを活用し、市場ニーズに精通していった点があげられる。

「企業マーケティングのデジタル化の潮流は、この2年間で急激なシフトチェンジを引き起こしています。つい最近、アメリカのマーケター1000人を対象にアンケート調査を行ったところ、『過去50年間よりも、直近の2年間のほうがマーケティング業界の変化は激しい』と答えた人が非常に多かった。私はプロのマーケターとしてオムニチュアを買収する前からオムニチュアのカスタマーでしたが、その後にアドビが買収するマーケティングソリューションのほとんどは、私たち自身がユーザーとして使ってきたものです。私たちが有用だと感じるツールをどんどん取り入れて統合し、テクノロジーを発展させていったというのが実際です。一マーケターとして、アドビの中で仕事ができるのは本当に幸せですね(笑)」