繁華街にひとが少ない理由
アンマンの街を歩いていて気づくのは、“繁華街”とされている地域でも打ち捨てられた店や住宅が目につくことだ。郊外に続々と住宅地が生まれた結果、より利便性の高い暮らしを求めて住民が出て行ってしまうからだという。こうして中心部でも街がゴーストタウン化していく。

もっとも、通りにひとの姿がないのには別の理由もある。
私が訪れた2013年12月は厳冬で、アンマンでも雪が積もっていたが、夏は気温が上がり日差しも強いのでそもそも戸外を出歩く習慣がない。それに加えてアラブの国では、スークなどを除けば女性が一人で外出することは好まれない。さらに丘と低地の高低差が大きく街が広いので、徒歩では近所に行くくらいしかできない。
必然的に、アンマンでの暮らしは車が中心になる(バスは走っているが電車や地下鉄のような公共交通機関はない)。
アンマンの街を歩いていると、ホブス(アラブパン)の上に鶏や羊、牛の焼肉を乗せたシュワルマのファストフード店に行列ができているのをよく目にする。行列に並んでいるのは全員が男で、近くに停めた車の中で妻や子どもたちが待っている。焼きたてのシュワルマを家族全員で車の中で食べるのが庶民の“外食”なのだ。富裕層はアラブ料理(レバノン料理)の高級レストランで夕方の早い時間から宴会をしているが、それ以外にはダウンタウンに安食堂があるくらいで中流階級向けのレストランは多くない。
アンマンは楽しみにしていた街だが、古代ローマの遺跡や考古学博物館、スークなどを見学するとあとはすることがなくなってしまう。モロッコやチュニジアに比べても保守的で、アルコールを出すのはホテルや一部の店に限られている。出かけるとしても、Trip Adviserなどで調べたレストランを予約してホテルからタクシーに乗るしかない。
ガイドブックを見ても、アンマンは死海やペトラ遺跡観光の経由地扱いで、どこも街の紹介には苦労しているようだ。はじめての旅行者には楽しみ方の難しい街だった。
<執筆・ 橘 玲(たちばな あきら)>
作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 究極の資産運用編』『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券編』(以上ダイヤモンド社)などがある。ザイ・オンラインとの共同サイト『橘玲の海外投資の歩き方』にて、お金、投資についての考え方を連載中。
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