東芝が誇る半導体の先端技術が不正に持ち出され、競合他社がそれを使用したとされる技術流出問題。世間の関心を集める一大事件に発展したが、今日もグレーゾーンの領域で技術流出は続いている。

 3月13日、羽田空港はある人物を待つ報道陣でごった返していた。芸能人やスポーツ選手といった有名人を待っているわけではなかった。

 到着したお目当ての人物は、黒い上着を頭からかぶせられ、顔が見えない状態で報道陣の前に姿を現した。日本では異例となる“産業スパイ”の容疑で逮捕された、韓国半導体メーカー、SKハイニックスの元社員だったのだ。

 容疑の内容は、その男が米半導体メーカー、サンディスクの社員だった2008年にさかのぼる。東芝とサンディスクが共同開発している半導体、NAND型フラッシュメモリの技術に関する機密情報を不正に手に入れ、ハイニックスに持ち込んだというものだ。

 NANDは東芝の営業利益2900億円(今期予想)のうち、2100億円を稼ぎ出す半導体事業のコア製品だ。今回の逮捕を受けて東芝は、自社の機密情報を不正に取得、使用したとして、ハイニックスに対して損害賠償を求めて提訴した。

東芝案件で議論再燃も <br />繰り返される技術流出の現実技術流出が起きた現場とされる東芝の四日市工場(左)。NAND型フラッシュメモリ(下)を量産する最先端の半導体製造工場だ
Photo by Takahisa Suzuki
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 かねて関心が高く、対策が必要といわれ続けてきた技術流出問題。12年に新日本製鐵(現・新日鐵住金)が自社の製造技術を不正に取得したとして、韓国鉄鋼メーカー、ポスコを提訴したときも大議論を巻き起こした。今度は東芝の稼ぎ頭で、世界トップ級の競争力を持つNANDの技術が海外へ流出した疑惑が浮上とあって、世間の関心は過熱。滞留していたマグマが一気に噴出したかたちだ。

 もっとも、現場は意外に冷静だ。東芝のある幹部は周囲の騒ぎに対し少し困惑気味に「技術流出によるNANDの競争力への影響は、限定的といっていい」と語る。