ビットコインの成功は、コンピューター・サイエンスに関わる人々に大きな刺激を与えた。インターネット上で機能する送金手段が続々と登場しているのである。昨年の11月頃にすでに80種類程度のものが存在すると言われていたが、現在ではすでに200近くのものが存在している。

 これらの多くはビットコインの方式を受け継いだものだが、「リップル」のように、まったく異なる仕組みのものもある。

 ある意味でより注目すべきは、ビットコインの仕組みを貨幣以外の対象に拡張しようとする動きだ。まだ計画段階とはいえ、「イーサリアム」はそうした試みで、社会構造を大きく変える潜在力を秘めている。

 以下では、「リップル」と「イーサリアム」について述べた後、他のものについても触れることとしよう。

リップルの基本的な仕組み

 以下で述べるように、「リップル」(Ripple)は、他の送金手段とは構造が大きく違う。円、ドル、金(きん)、ビットコイン、その他のいかなる通貨や資産でも送金できる。例えば、「円で残高を持ち、ドルで送る」ということができる。しかも、瞬時に(数秒で)、コストがほとんどゼロで送金できる。

 まだ出来たばかりだが、グーグルが出資をしたので、注目された。

 ビットコインの場合と違って、運営者ははっきりしている。ただし、名称は混乱する。最初はOpenCoin Inc.だったが、2013年9月にRipple Labs Inc.に名称を変更した。これ以前の文献を読むと、OpenCoinが運営と書いてある。同名のものが別にあったので、紛らわしかった。

 ビットコインとの最大の違いは、つぎの点にある。

 ビットコインでは、コインを直接送っている。それに対して、リップルが扱うのは、IOU(借用証書:I owe you.「あなたに借りがある」)だ。これをインターネット上で移転させる。だから、「通貨」とか「コイン」と呼ぶのは適切ではあるまい。

 IOUは、ドル、円、ビットコイン等々、どんな形のものでもよい。従来の支払い手段で言えば、小切手に似ている。負債に相当するものを動かすので、送金者、受取者の他に第3者が必要になる。それが、つぎに見るゲイトウエイだ。

 例えば、花子が太郎に送金することを考えよう。花子はまず次郎に送金する。次郎は花子に対して、IOU「あなたに借りがある」の関係になるわけだ。それを、リップルのシステムを通じて、「次郎が太郎に借りがある」という関係に変える。そうすれば、花子から太郎に送金がなされたことになる。次郎は仲介の機能を果たしたわけで、ゲイトウエイ(gateway)と呼ばれる。詳しくは後で述べる。