2014年3月8日に埼玉スタジアムで行われたJリーグ・浦和レッズ対サガン鳥栖戦でレッズ・サポーターが観客席に「JAPANESE ONLY(日本人以外はお断り)」という差別的意味合いのある横断幕を掲げた。横断幕は試合中ずっと放置され、撤去されたのは試合終了後だった。Jリーグは、浦和レッズのずさんな運営に激怒し、3月23日の清水エスパルス戦を、Jリーグ史上初めての「無観客試合」とする厳しい処分を下した。

 横断幕を掲示したサポーターは、「ゴール裏は聖地。他の人は入ってきてほしくない」「海外の人たちが入ると統率がとれない」と主張した。これが「人種差別」だと厳しく批判されることになったが、筆者には、彼らの「差別意識」の有無よりも、そもそも彼らが「外国人と接するのに慣れていない」のが問題だと思った。

 筆者は英国在住時に、稲本潤一選手が在籍していたウェスト・ブロミッチ・アルビオン(WBA)のスタジアムが近所だった関係で、よく観戦した。ゴール裏の席にもよく行った。WBAは、フットボールの母国の伝統あるチームだが、別にゴール裏はサポーターの「聖地」ではなかった。

 ゴール裏には、いろいろな肌の色の人がいた。白人も黒人もいれば、インド系もいるし、中華系もいた。確かにコアなサポーターが陣取っていて、白人が多かった。単純な決め事で応援していたけど、周りに一緒に応援しない人がいても、気にしなかった。基本的に、外国人に無関心な態度だったと思う。

 欧州のフットボール・チームは多国籍軍だ。助っ人として外国人選手が数人加わるJリーグのレベルではない。外国出身選手がチームの大多数を占めるのだ。コアなサポーターは、子どもの頃から成長を見てきた地元出身の選手が少ないことに、内心複雑な感情があるだろう。だが、それを抑えて、外国出身の選手も「ファミリー」として受け入れてきた歴史がある。

 欧州のスタジアムでは、過去さまざまな人種差別的な事件があったという。現在でも時々起こる。だが、そんな事件も含めて、長年いろいろな経験を蓄積することで、サポーターは外国人と上手くやっていくことを自然に覚えてきたといえる。浦和のサポーターに欠けていたのは、そんな日常の経験だったのではないだろうか。