日本から世界へ目を向けると、業界では世界のジャイアントと呼ばれる企業が、新興国・途上国市場への新しいアプローチ方法として、「インパクト・インベストメント」に注目しつつある。今回は、新興国の教育分野においてBOP市場の将来性を見込み、いち早くソーシャル・ベンチャー企業への投資実績を急速に積み上げているピアソンの取り組みを紹介する。BOP対象の教育市場で収益を上げ、さらには次の事業展開ができるように、新たな市場環境を作り上げることにチャレンジしているのだ。

教育産業の巨人ピアソンが
設立したファンドとは

 多くの企業は、新興国の低所得(Bottom of the Pyramid、以下BOP)市場に高い関心を寄せてはいるものの、その厳しい市場環境を前に、進出に足踏みをしているのが現状だ。そんな企業を尻目に、将来、BOP市場でのビジネス環境を創造すべく、果敢に仕掛け続けている企業がある。教育分野で世界一のシェアを誇るピアソンである。

 ピアソンは、約4万人の従業員を抱え、80ヵ国以上で活動するグローバル企業だ。主な事業は教育で、幼児教育から成人教育にいたる分野で、教材、テスト、オンライン学習プログラムなど幅広い商品やサービスを提供している。その成長を支えるのが新興国市場だ。ピアソンの新興国市場における教育事業の売上は、2007年から2013年にかけて約3倍になった。

 そのピアソンは、2012年に「Pearson Affordable Learning Fund(以下、PALF)」を設立した。投資先は新興国・途上国のBOP層向けの低価格な教育ビジネスである。新興国・途上国の教育、と聞くと「政府が援助する分野」と考える人は多いだろうが、実は今、「EduTech」と呼ばれるタブレットやインターネットなどのICT技術を活用した学習・学校管理ツールや、革新的なビジネスモデルが次々と生まれている、ホットなビジネス分野なのだ。

 このPALFを率いるのが、マネージング・ディレクターであるケイトリン・ドネリーさんだ。今年、フォーブス誌で「教育を革新する30歳以下の30人」に選ばれた、27歳の若き才媛である。

 有名コンサルティング会社のマッキンゼー出身のドネリーさんに、ピアソンがインパクト・インベストメントに取り組む戦略的な狙いと具体的な方法についてお話を伺った。