キシリトールを売るには
誰と組むべきか

前回、マーケティングの実践には「社内外、すべてのステークホルダーを動かすストーリーテリング」が必要であることを、私の20代の時の体験を交えてお話ししました。今回は、このことをさらにわかりやすくお伝えするため、私が今の会社をつくる前に携わった仕事の事例をご紹介したいと思います。

 世の中に健康志向が広がりはじめたのは1990年代後半頃からでしょうか。97年には日本で初めて、シュガーレス甘味料「キシリトール」を使ったガムが発売されました。

 キシリトールでよくいわれる「むし歯予防効果」については、それ以前から国内外でさまさざまな研究が行われていました。特にフィンランドでは、すでに70年代にキシリトールをむし歯予防に役立てる実践的な研究が行われていたのです。

 97年当時、私は、フィンランドの食品素材メーカーで、アジア市場へのキシリトール普及に向けたマーケティングの責任者をしていました。同年のガムの発売に先立ち、日本でもキシリトールが甘味料として国の認可を得ましたが、まだまだその認知度は低いものでした。

 さてどうしたものか。いろいろと調べるうちに、キシリトールを普及させるにあたっては、歯の健康の専門家である歯科医とのコンセンサスが欠かせないと、私は気が付きました。そこで、歯科診療の現場について徹底的に調査を行うことにしたのです。すると、歯科医のマジョリティは、「むし歯の予防が進めば患者が減って、自分たちの仕事も減ってしまうのではないか」と考えていることがわかりました。

 97年は、日本でも次第にインターネットが普及し始めた頃です。インターネット上で見かけるキシリトールへの意見も、ポジティブなものは半数にも及んでいませんでした。このままでは、いくらマスメディアでキシリトールをPRしても効果がありません。

 何とかして、歯科医とWin-Winの関係を築けないものか。私はさまざまな方向性を模索し、ようやくある戦略にたどり着きました。

 当時の歯科診療ビジネスを調べてみたところ、日本には約6万5000人の歯科医が開業しており、そのうち約9割はむし歯や歯周病などの治療を主としてしているのですが、一方で、むし歯にならないための歯みがき指導や、定期健診などのいわゆる「予防型」の指導をビジネスとしている人も、全体の1割程度いることがわかったのです。