分譲住宅を購入するとき、足を運ぶのがモデルルームだ。そのモデルルームにはたいてい、完成時を予想した住宅と街区の模型が設置されている。

 その模型がある日突然、暴漢らに襲われた。高層住宅をかたどった多くの模型は見るも無残に“倒壊”し、模型を囲うガラスも粉々に砕け散った。

 この暴漢の正体は、このマンションをすでに購入し居住している所有者たちだった。

かつて日本も経験した不動産暴落
中国の所有者たちの反応は

 場所は浙江省杭州市、マンションの名称は「天鴻香鯀里」。破壊活動時のスローガンは「住宅販売は詐欺だ!金を返せ!」。

 怒りの理由は、次期分譲区画の販売価格が、自分たちが購入した区画よりも3割近く安価、つまり値下がりしたというものだった。

 振り返れば日本も、不動産価格の下落を経験した。1990年夏までは、住宅価格は一本調子で上昇し、モデルルームには購入検討者が大挙して押し寄せ、申し込み住戸の抽選競争率が10倍ということも珍しくなかった。それが9月に入ると、客の姿が忽然と消え、それ以来、不動産価格は下落局面に突入した。

 だが、当時の購入者はどこかで「自己リスク」を認識していた。不動産価格は上昇するときもあれば下落するときもあり、需要と供給で価格が決定されているという「市場原理」も認識していた。従って、こうした抗議行動が表面化することはほとんどなかった。ましてや、物件購入者がその販売拠点を破壊する行為になど及ぶこともなかった。

 お国柄の違いや個々の事情の違いもあるだろう。中には、飲まず食わずで爪に火をともすようにして住宅資金を貯めた人もいるだろう。財産価値の目減りで怒り心頭に発し破壊行為を行うというのは、彼ら中国人が「住宅」という固定資産に対して、我々日本人が想像も及ばないような“恐るべき執念”を持っていることを物語っている。