「出羽守(でわのかみ)」は嫌われる

 以前、転職エージェントで仕事をしている人の間では「出羽守(でわのかみ)」という隠語がよく使われていました。これは転職して新しい職場で働き始めた際、「前の会社“では”」と言って反発を招く人を指した言葉です。

「前の会社ではこんな風にやっていました」

 何の悪気もなしにそう言う人は少なくありませんが、これは転職した職場での明確なNGワードです。他の社員からいらぬ反感を買ったり、誤解を受けたりするからです。

 社長である私でも自社の社員に対し、前職の「リクルートではこうだった」とは言いません。そう言われたら「この会社はリクルートではない」「そんなにリクルートがいいなら、リクルートで働けばいいだろう」と社員は不快に感じるでしょう。

「前の会社ではこうだった」という言葉が反発を招くのは、「前の会社は素晴らしく成功している会社で、そこでのやり方はこうだったから私の言っていることが正しい」という匂いがプンプンするからです。悪気がなくても嫌な感じがしますし、まして相手を説得するための論法として使えば「高圧的だ」と受け取られかねません。

 当社のグループ会社には、有名な外資系コンサルティングファームから転職し入社した社員がいます。こちらは興味津々でいろいろなことを質問するのですが、決して自分から「前の会社では」とは言いません。

 たまらなくなって「前職ではどうやっていたの?」と具体的に聞くと、はじめて「前の会社ではですね……」と答えてくれます。前職のブランド力が強いだけに、その社名を持ち出すと自分がパワーダウンしてしまうのがよくわかっているのだと思います。