専門家にも分からない
今後の世界経済の行方

 最近、多くのメディアの方々から、「今後の世界経済、金融市場はどうなっていきますか?そして日本市場やわれわれ一般市民に対する影響はどのようなものですか?」と聞かれることが多い。

 世界経済、金融市場の混乱ぶりを見れば、メディアがそれを読み解く役割を果たさないといけないのは明らかだが、明確な答えを持ち合わせている有識者は実は少ない。「悪い」ということはわかっているが、どれぐらい悪くて、どの程度の期間続いて、そしてその処方箋は?となると、皆目見当がつかないのである(当然、私にもわからない)。

 ジョークのような話であるが、先日話をしていた番組プロデューサーによると、最近は冒頭のようなマクロの質問をされることを嫌がる専門家も少なくないようである。「答えが分からないから」だそうだ。

 さて、世界経済や金融市場で混乱が起きている昨今を読み解くヒントはどこにあるのだろうと考えてみると、アカデミズムの世界には「マクロ経済学」なるものが存在する。マクロ経済学で登場するキーワードは、インフレ、金利、失業率、所得、生産高、供給、需要、貨幣量(マネーサプライ)、などであり、なるほど、今の混乱を読み解くにはドンピシャな学問であるとの印象を受ける。ということで、今回はマクロ経済学のお話である。

インフレは悪ではない?

 例えば、インフレという現象を考えてみよう。つい先日我が家では、息子の通う保育園の料金が値上がりするという通知が送られてきた。インフレとは無縁と思われていた日本でも、ガソリンや食料品以外でも様々なものが値上がりを始めたのだ。インフレに対して皆さんはどのような印象を持つのだろうか。多くの人は嫌がることと思う。

 私が前期に履修した中級マクロ経済学の授業で用いられたテキストは「マンキュー マクロ経済学I(入門篇)、同II(中級篇) 東洋経済」であったが、その入門篇の中でも、一般の人々にアンケートをとると、多くの人がインフレを嫌がるということが書いてある。

 一方、同じくだりの中に、経済学者はインフレを悪だと考える人はさほど多くはないということも書いてある。物価が上がっても、給料が上がれば実質生活レベルは変わらないのだから、さほど嫌がる必要はないのだということである。

 確かに今の団塊世代の人たちにとっては、むしろインフレが存在しなかった過去10年ほどの日本が例外であった。彼らの人生のほとんどにおいてはインフレが起こっていたが、彼らの生活は給料が増えたことによりむしろ裕福になっていった。

 また、マクロ経済学では、インフレが起きると名目利子率も上昇するということも学ぶ。なるほど、過去のアメリカや日本のインフレ率と名目利子率のグラフを見てみると相関して動いていることが見て取れる。これは、インフレがほぼゼロ、名目利子率もほぼゼロという最近までの日本の状況でも納得できるものである。

現在の複合インフレは
対処が難しい

 さて、テキストにはそのように書いてあっても、多くの日本人は今回のインフレはやっぱり嫌だと思うであろう。