米国経済の中長期的な成長力を慎重に捉える見方が最近増えてきている。

 イエレン議長を含むFRB主流派は、米経済は回復を続けるものの、先行きの改善ペースはゆっくりとしたものになるとみている。それ故、銀行間の短期金利を来年から引き上げ始めても、それが中立的な水準である4%前後に達するには時間がかかるというイメージが発せられている。もしそうなら、日米金利差の観点からは先行きの円安進行は限定的となる。

 タルーロ理事は4月9日の講演で、米国の活力を殺いでいる構造的な問題が四つあると述べた。第一に、生産性の成長が遅くなっている。その理由の一つに、労働市場のダイナミズムの低下がある。企業のスクラップ&ビルドが減り、労働者の企業間の移動が低調になっている。州を越えて転職する人も大幅に減った。2011年の州間の“移民”は、1948~71年平均の半分未満だ(米国でも「地元族」が増えているらしい)。

 第二に、国全体の所得に占める労働者の取り分が2000年代に入ってから急激に低下している。企業の力が増しているのだとすれば、企業間の競争低下が起きている可能性がある。

 第三に、所得不公平が増大している。所得階層のトップ1%に配分される比率が顕著に高まっている。しかし、中位階層の実質所得は97年から07年にかけて3%しか増えていない。

 第四に、所得階層の移動性が低下している。英国では低所得層の家庭に生まれた子供がそこにとどまる比率は30%だが、米国では40%を上回っている。