東国原英夫宮崎県知事の発言「私を自民党総裁候補として総選挙に臨むか」は、この連載の第24回に書いた、自民党政権における年功序列(当選回数至上主義)の問題点をズバリと指摘した。自民党の人事システムでは、東国原知事の人気で自民党が総選挙に勝利しても、知事は当選後ただの1回生議員になる。東国原知事の発言は、これまで自民党の人事システムの硬直性によって、人材を次々と使い捨ててきたことに対する異議と理解すべきである。

支持率を上げるために
汲々とする麻生政権

 古賀誠・自民党選挙対策委員長が東国原知事に会談を申し込んだことと、麻生首相が閣僚人事で東国原知事の総務相起用を検討したことは、総選挙を目前に控えて東国原知事の人気を支持率低迷からの脱出に繋げたかったからだ。

 麻生首相はこれまで支持率を上げるために汲々としてきた。まず「国民への買収」と野党が批判し、小泉元首相など自民党内や財務省からも反対論が噴出した「定額給付金」や、当初予算と補正予算の合計で史上初の100兆円を超えた経済対策がある。これには、「環境対応車や省エネ家電への買い替え支援」や地域医療の拡充、介護拠点の整備など従来型の公共事業依存ではない一定の評価ができるものがある。しかし、日本のポップカルチャーを海外でプロモートする「国立メディア・アートセンター」の設立など、自民党内部からも「究極の無駄使い」と批判されたものも含まれている。

 また、5月15日の政府の有識者会議「安心社会実現会議」で麻生首相が提案した「厚生労働省分割案」も挙げられるだろう。厚労省を医療、介護、年金、福祉を担当する「社会保障省」と、雇用、児童、家庭部門や少子化、男女共同参画を管轄する「国民生活省」に分割し、文部科学省所管の幼稚園+厚労省所管の保育園を一体化する(「幼保一体化」)という提案は、元々渡邉恒雄読売新聞グループ本社会長の提唱だという。渡邉氏は橋本行革の審議会「行政改革会議」委員を務めて以来、10年以上省庁再編の検討を続けており、その提案自体は傾聴に値するものだ。

 しかし、麻生首相はこれを総選挙の公約とするために具体案作成を急いだ(麻生首相はこれを否定するが、関係閣僚の動きから首相指示があったのは明らかである)。その結果、舛添要一厚労相が強く反発するなど、政府・与党内から反対論や慎重論が噴出した。最終的に、麻生首相が「最初から分割にこだわっていない」と発言。厚労省分割を巡る議論はこのまま尻すぼみになる公算が大きい。