松田 そういうことが大切なのだと思います。ただ、透明のカップにアイスコーヒーやアイスラテが入った状態だと、ロゴは目立ちません。それであるとき、大失敗に気づきました。すれ違うカップルが私のカップをじっと見ていたので、もっとロゴがよく見えるように角度を調整しながら持っていたら、女の子が男の子に一言。「ねぇ、スタバ行こうよ」って(笑)。

 すれ違う程度の時間では、「透明のカップに丸いロゴ」ぐらいしか認識されない。だから、すでに圧倒的に有名だったスタバと勘違いされやすかったのです。これはショックでしたね。

高城 よりによって、ライバル・スタバの宣伝になってしまったんですね。

「ストロー」をめぐる攻防

松田 そこで考えた末、ではストローの色を変えようと思い立ちました。当時、日本の飲食店では、ストローといえば白またはピンクやブルーのストライプのものしかありませんでした。「塗装されたストローはダメ」というのが理由らしいのですが、しかし白も塗装のはず。そこでグリーンのストローにしようと思ったのです。

 ところが、国内のストローメーカーにはすべて製造を断わられました。周囲にいる何人かに相談しても、一様に「気持ち悪い」という。でも私は大丈夫だと信じていたので、アメリカで見つけて大量に輸入しました。その結果、同じくカップを持って街を歩いていても、明らかに人目を引くようになりました。「あの緑のストローは何だ」と。店にお客さんが増えはじめたのは、そのころからです。

高城 すれ違う人にも、「スタバとは違う」ということが意識されたんですね。

松田 ところが、この話には続きがあります。半年後、スタバがすべてのストローを緑色にしたんです(笑)。彼らは、タリーズの存在をすごく嫌がっていたようです。店舗数ではスタバが圧倒していましたが、地元シアトルでは「本当においしいのはタリーズ」という評判が立つようになっていたからです。それゆえ、彼らは日本でも危機感を持っていたのでしょう。「ここまでやるほど必死なんだな」と、私は逆に尊敬しましたけど。

 タリーズは規模が小さい分、豆の品質も高いままで維持できるのです。「本当においしいのはタリーズ」と僕自身も自信を持っています。

高城 銀座の一角というのは、まさにスペシャリティコーヒーの激戦区だったんですね。それにしても、ゾウに立ち向かうバイタリティの源泉は何ですか。やはり経営者だから?

松田 それはありますね。私は強い人間ではないので、意図的に自分を崖っぷちに追い込むようにしています。1号店を開くときに7000万円の借金に躊躇しなかったのも、その1つです。そこまでやって失敗したのなら仕方がない。しかし、中途半端に取り組んで失敗して、「自分は力を出し切っていなかった」と言い訳するのだけはやめようと。

 だから、何かの選択を迫られたときは、常に「難しいほう」を選ぼうと思っています。今もシンガポールで新しいビジネスを立ち上げている最中ですが、この道もかなり険しい。だからこそ多額の資金を投入し、自分を崖っぷちに追い込んでいるんです。