橘玲の世界投資見聞録 2014年5月9日

ビザンティン帝国=ギリシアが答えだった
[橘玲の世界投資見聞録]

ビザンティン帝国はギリシア人の国

 歴史家・井上浩一氏の『生き残った帝国ビザンティン』(講談社学術文庫)によれば、最盛期のビザンティン帝国は高度に発達した官僚国家で、国民の教育レベルもきわめて高かった。

 教会や修道院には初級学校が置かれ、そこでは読み書き算盤が徹底的に教え込まれた。中等教育に進めば、生徒はホメロスの詩でギリシア語の正しい綴りを学んだ。ホメロスはビザンティン教養人の常識で、官僚であれば誰でもホメロスの詩を暗唱できた。ギリシア語の勉強は紀元前1世紀の文法書を使って行なわれたから、彼らはプラトンやアリストテレスなど古代ギリシアの哲人たちと同じ文章を書いた。高等教育になると、算術・幾何・天文学・音楽などの一般教育科目が教えられた。中世の西ヨーロッパでは読み書きできるのは教会の司祭などごく一部にかぎられていたから、彼我の文明の差にはすさまじいものがあった。

 古代ギリシア・ローマの文化や芸術は、ビザンティン帝国と、その跡を継いだオスマントルコに伝えられた。15世紀なかばに大航海時代が始まり、それにともなって地中海貿易が活発化してフィレンツェなどイタリアの海洋都市が勃興すると、彼らがビザンティンやイスラムの文化に触れたことでルネサンスの時代が幕を開けたのだ。

イスタンブールのシンボル、ブルーモスク     (Photo:©Alt Invest Com)

 

 ビザンティン帝国がギリシア人の国であることは中世ヨーロッパの常識だった。

 962年にローマ教皇から戴冠を受けたのち、ドイツ王オットー1世はビザンティン帝国に使節を送ったが、その目的は自分も「ローマ皇帝」の名称を使いたいというものだった。それ以前にフランク王カール(大帝)も「皇帝」を名乗ったが、当時はまだビザンティン帝国の皇帝こそが真の「ローマ皇帝」だと考えられていたのだ。

 西ヨーロッパには複数の王がいたが、ビザンティン帝国は神政一致の専制国家で皇帝は全能の神によって選ばれるのだから、「ローマ皇帝は地上にただ1人」としてオットー1世の申し出を断わった。ビザンティン側が激怒して交渉が決裂したのは、ローマ教皇の親書に、ビザンティン皇帝ニケフォロス2世のことを「ギリシア人の皇帝」と書いてあったからだ。

 1400年、オスマントルコの圧迫で滅亡寸前に追い詰められたビザンティン皇帝マヌエルは、西ヨーロッパの君主たちの支援を受けるべくフランスとイギリスを訪れた。フランス王シャルル6世も、イングランド王ヘンリー4世も、遠路はるばるやってきた「ギリシア人の皇帝」を大歓迎した。オットーの戴冠から500年を経て西ヨーロッパとビザンティンの力関係は完全に逆転し、マヌエルは自分が「ギリシア人の皇帝」であることを黙って受け入れたのだ。

 コンスタンティヌス1世の遷都からビザンティン帝国滅亡までの1000年間、ギリシアの首都も正教の首座もコンスタンティノポリスにあった。アテネのあるバルカン半島南端はギリシアの辺境で、その中心はアナトリア半島だった。

 ビザンティン帝国ではギリシア語が公用語で、ひとびとは自分たちが古代ギリシアの後継者だと考えていたのだから、ヨーロッパ人が彼らのことを「ギリシア人」と呼ぶのは当たり前だ。だがそれにもかかわらず、そこは「ローマ帝国」で支配者は「ローマ皇帝」でなければならなかった。

 ビザンティン帝国がギリシアだとわかって、ようやくいろんな謎が解けたのだ。

   

 <執筆・ 橘 玲(たちばな あきら)>

 作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 究極の資産運用編』『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券編』(以上ダイヤモンド社)などがある。

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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