宇宙「論」の危機

 ヒトはどんどん変わる「現実」を必死になって追いかけています。少しでもその先が分かれば、もうちょっと楽なのに……。

未来が知りたければ、強力な「理論」を持つしかありません。そしてその理論は「素朴な疑問」と「美の追究」から、生まれてくるのです。

 いまわれわれが存在するこの宇宙の構造や誕生のヒミツ、行く末を解き明かそうとする学問を「宇宙論」といいます。ギリシャ人は月に映る影から「地球は丸い」と知っていました。コペルニクスはその地球が、実は太陽の周りを回っている惑星の一つに過ぎないと看破(かんぱ)しました(=「地動説」)。そしてその太陽はこの天の川銀河にある2000億個の恒星の一つに過ぎず、この宇宙にはおそらく 1000億以上の銀河が存在します。

なんという階層性でしょう。

 最新の観測・考察によれば、宇宙の年齢は137億年。わが銀河系は、お隣のアンドロメダ銀河にあまりに近く(たった230万光年。秒速30万kmの光のスピードで230万年掛かる)、今から30~40億年の後には「衝突」し、混じり合い、さらに10億年後には一つの銀河となってしまいます。ちょうどその頃、太陽は老齢期に入り、地球を呑み込むほどの赤色巨星(せきしょくきょせい)となるでしょう。

なんという時間(とき)の流れでしょう。

 古代からとびきりの科学者たちが叡智(えいち)を絞って、こういった宇宙の仕組みを解き明かし、「宇宙論」を築き上げてきました。ニュートン然り、アインシュタイン然り。

 ところがその宇宙論はここ数十年、危機に瀕しています。理論が現実をまったく説明できていなかったのです。