野菜事業で26億円の赤字を出し敢え無く撤退。出した辞表はオーナーの柳井正から“金を返せ”と突き返された。あれから10余年。その柚木治氏率いるファッション衣料ブランド「GU(ジーユー)」が気を吐いている。オンシーズンに低価格でトレンドを身に着けられるというコンセプトが若者を魅了したのだ――。孤高さすら感じさせるユニークネスと、多くの者の共感を呼び揺り動かすビジョン。一見、相矛盾する要素を兼ね備え、圧倒的な価値を生み出す“バリュークリエイター”の実像と戦略思考に迫る連載第3回解説編。(企画構成:荒木博行、文:治部れんげ)

企業をビジネススクールと捉える(解説編)<br />――ジーユー・柚木治社長ジーユー社長・柚木治(右)、グロービス経営大学院教授、株式会社グロービス ディレクター・荒木博行

ファッションを、もっと自由に。26億円赤字撤退からの“倍返し”(前編)を読む
ファッションを、もっと自由に。26億円赤字撤退からの“倍返し”(後編)を読む

 よく「失敗は成功の母」と言う。成功した経営者に話を聞けば、必ず失敗談の1つや2つは聞けるだろう。世の中、全ての出来事が成功で終えられることはない。何か新しいバリューを生み出そうとする以上、失敗は必然。そして失敗から学ぶことはもっと大事。そんなことは誰もが分かっている。

 しかし、我々の失敗は何かにつながっているのだろうか?失敗には意味のある失敗とそうでないものはあるのだろうか?失敗にはどう向き合うべきなのだろうか…?

 今回のコラムにおいては、かつて野菜事業で26億円の損失を出して事業を畳むという辛い経験を経て、再びジーユーの社長として事業を成長軌道に載せている柚木さんのストーリーから、世の中に新たなバリューを生み出していくためのキャリアの積み重ね方を深めていきたい。

「企業はビジネススクールである」という
マッコールのコンセプト

企業をビジネススクールと捉える(解説編)<br />――ジーユー・柚木治社長

 ビジネスパーソンが成長をしていくためには、Off-JTと呼ばれる研修や外部のスクールも重要であるが、効果的なOJT(業務を通じたトレーニング)の存在が大前提である、ということに異論を挟む人はいないだろう。OJTというリアルな成長機会が機能しているからこそ、業務とは離れたOff-JTの意味合いが増していくわけだ。

 しかし、ビジネススクールにおいて数多くのビジネスパーソンに接している立場として、成長の本丸であるOJTの場が効果的に機能しているのか、と聞かれれば、あまりに心許ない現実があると言わざるを得ない。示唆に富む貴重な業務経験抱えている人は多いが、多忙さの中にそれらの経験が粗末に扱われているように思えてならない。「経験は豊富だが、成長実感はあまりない」という人は少なからずいるのではないだろうか。

 もちろん、そのようなOJTの機能不全の責任の一端は、その育成を担う会社や上司側にもある。しかし、本人側にも業務経験を通じてどのように学びを積み重ねていくか、ということは、実際にあまり多くの人に理解されていないように思う。

 OJT、つまり業務を通じた経験から学びを深める、という考え方については、モーガン・マッコールが書いた『ハイ・フライヤー―次世代リーダーの育成法』という書籍に、参考になるコンセプトが提唱されている。そのコンセプトとは、「企業活動そのものをビジネススクールとして認識せよ」ということである。