製薬業界の老舗、塩野義製薬の復調が著しい。事業譲渡、リストラが続いた2000年代初頭の苦境から再生、業績は過去最高に達する。彼らは何をどう変革し、甦ったのか。そして、迫り来る“2016年危機”をいかに乗り切るのか。(取材・文/『週刊ダイヤモンド』編集部 佐藤寛久)

塩野義製薬(上)<br />10年をかけた刮目の復活劇<br />次の難関は「2016年危機」
誰でも一度は使ったことがあるシオノギの薬。一時は危機的な状況にあった製薬業界の老舗、塩野義製薬が、ここに来て復調著しい。それは、大胆な社内改革の賜物なのだ。

 「このままいったらつぶれますね」──。1999年、当時は経営企画部長の職にあった手代木功現社長は、就任したばかりの塩野元三社長(現会長)を前に、こう切り出した。

 131年の歴史を誇る製薬業界の名門企業が、なぜ破綻すらありうる苦境に陥ったのか、それは後で詳述しよう。

売上高と当期利益の推移

 そこから10年、刮目すべき復活劇である。今期は売上高2840億円、当期利益350億円で過去最高益を狙う。2004年3月期のじつに16倍もの利益水準だ。(上のグラフ参照)

 前期は94億円の当期減益だったが、研究開発費の増加やM&A関連費用で新たに214億円の費用が発生したためであり、戦略的先行投資の結果であった。

 実際、株式市場の評価も高い。予想株価収益率は20.6倍(8月14日終値ベース)で、武田薬品工業(タケダ)の10.8倍、アステラス製薬の12.5倍、を大きく上回る。塩野義製薬(シオノギ)の成長性に市場は高い期待を寄せているのだ。

 劇的な復活を牽引したのは、シオノギが創製した高脂血症治療薬「クレストール」だ。クレストールは、第一三共の「メバロチン」や、米ファイザーの「リピトール」などと同じ作用メカニズムを持つ「スタチン」と呼ばれる医薬品の一種だ。そのコレステロール低下作用の強さから、“最強スタチン”の呼び声も高い。

 海外では開発を担当した英アストラゼネカによって販売され、08年には約36億ドル(約3400億円)を売り上げた。09年も成長力は衰えず、第2四半期までに前年比34%増の売上高を記録するなど、将来「グローバルで50億ドル(約4800億円)という数字が視野に入った」(手代木社長)。