橘玲の世界投資見聞録 2014年5月22日

ギリシア正教は、初期キリスト教の形式を残し、
イスラム教成立にも影響を与えた
[橘玲の世界投資見聞録]

宗教行事の多い正教

 復活大祭はイースターとして知られているが、正教では「バスハ」と呼ばれ「すぎこし」のことだ。ユダヤ教の「過越(すぎこし)」の祭りは死の天使がユダヤ人の家を過越してエジプト人だけに訪れたという旧約聖書の出エジプト記に由来するが、正教では1日、1週、8週、1年をキリストの復活を祝いながら過越していく意味に変わった。

 正教には1年に4回の大祭があり、復活大祭はそのなかでもっとも重要なものだ。あとの3回は聖ペテロ・パウロ祭、生神女(聖母マリア)就寝祭、降誕祭(クリスマス)で、こうした大祭の前にはその準備として大斎が行なわれる。

 4世紀以降、厳格な断食は修道院でしか行なわれなくなり、斎は肉や魚、乳製品などを食べない節制の期間とされるようになった。大祭の準備は8週間に及び、最初の4週間で徐々に食べるものを減らしていき、斎に入った第1週は菜食と貝類の食事だけが許され、3週目で肉を、4週目で乳製品を絶つ。

 このように復活祭だけでも、毎週日曜の小復活祭、8週にいちどの中復活祭、春に行なわれる復活大祭があり、そのたびに斎や大斎が求められるのだから、正教徒の一生は宗教行事をこなすだけで終わってしまう。

 正教では1日を3時間ごとに8つに分け、各課ごとに祈りが決められている。夕暮れには一日が無事終わったことを感謝し、夜には一日を反省し神の許しを乞う。クリスチャンにとって夜は死を意味するから、深夜にはキリストの再来を瞑想し、明日のよみがえりを祈願する。朝は午前3時に始まり、安眠に感謝し、新しき日の祝福を願う。修道僧や敬虔な信徒には1日に8回の礼拝が課されていたのだ。

 正教司祭である高橋保行氏は、「人生は、この世から、来世に向かっての大きなバスハ(すぎこし)」だという。正教徒はこうした過越しとしての生を「8」を中心とした周期とし、準備と成就(祭)を繰り返しながら来世へと向かっていくのだ(正教の祭儀は宗派によって違いがあるが、ここでは高橋氏の『ギリシャ正教』によった)。

イスラム教の創始者・ムハンマドが出会ったギリシア正教

 アラビア半島のメッカに生まれたムハンマドは、一族の者たちとともにシリアとの隊商交易に従事した。当時のシリアはビザンティン帝国の領土で、国教であるキリスト教が厚く信仰されていた。ムハンマドが出会った宗教はギリシア正教だった。

 ムハンマドはメッカ郊外のヒラー山で瞑想にふけっていたとき、大天使ジブリール(ガブリエル)から唯一神の啓示を受ける。いうまでもなくこの神(アッラー)は、ユダヤ教やキリスト教の神と同一のものだ。

 イスラムでは夜明けから夜まで1日5回の礼拝が行なわれ、ラマダーンという断食月がある。こうした戒律はイスラムに特有のものと思われているが、礼拝の日課(サラー)も、断食(サウム)も、喜捨(ザカート)や巡礼(ハッジ)や信仰告白(シャハーダ)もすべて正教で行なわれていたものばかりだ。

 ムハンマドは、合理的な解釈によってキリスト教の矛盾を解決した。すわなち、イエスは預言者の1人ではあるが人であり、神ではない。これならイエスの神性と人性で紛糾した公会議のスコラ的な議論も必要ない。マリアは処女のままイエスを生んだのではなく、ごくふつうに出産した。

 それと同時にムハンマドは、偶像崇拝の禁止を神の教えとして徹底した。キリスト教はイコンを「聖書」として布教したが、イスラムでは信徒がコーランを朗誦する。これによって、神の偶像なしで信仰が可能になる。イスラムから見れば、キリスト教は処女が懐妊し、人が神になり、信徒は神の偶像を拝む荒唐無稽な宗教なのだ。

シンメトリーの美しいアルハンブラ宮殿はイスラム建築の代表(スペイン、グレナダ) (Photo:©Alt Invest Com)


  伝統を重んじ古来の祭儀を固守する正教は、ルネサンス期に大きく変容したカトリックよりも初期キリスト教の形式をよく残している。正教の祭儀を見れば、それがユダヤ教から強い影響を受けていると同時に、イスラムが7世紀初頭にオリエントで起きた「(ギリシア正教に対する)宗教改革」だという側面も見えてくるはずだ。

 

 <執筆・ 橘 玲(たちばな あきら)>

 作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 究極の資産運用編』『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券編』(以上ダイヤモンド社)などがある。

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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