日本企業の人事制度が
マーケティングに影響?

 マーケティングは、消費者のニーズをつかむためのサイエンスと、市場を創造するクリエイティブ(制作物)の融合によって顧客に価値を届ける包括的な活動です。一見対局にありそうなこれらの価値をとりまとめて成功に導くためには、広範なスキルが求められます。昨年のカンヌ国際クリエイティブフェステバルでも、「アート&サイエンス」が優秀作品選考におけるキーワードでした。

 ところが日本では、魅力的なテレビCMを作ることはクリエイティブな仕事だと思われていても、「マーケティング自体がクリエイティブな活動である」という認識はまだまだ低いのではないでしょうか。

 欧米のグローバル企業では、以前よりIMC(Integrated Marketing Communication、統合型マーケティング)が重要視されてきました。広告やイベントはもちろん、オンラインによるプロモーションといった多面的なコミュニケーションの統合から始まり、さらには、消費者インサイトのリサーチによる商品開発、流通施策までの戦略立案といったビジネス・プロセスの構築、そして最近では、プライベートDMP(Private Data Management Platform、自社で蓄積したデータをマーケティングに活用する基盤)を経営に取り入れたりと、マーケティングのカバー領域はどんどん進化しています。

 日本企業はどうでしょうか。個人の価値観の多様化や単身世帯の増加など、消費者の生活環境が急激に変化しているにもかかわらず、消費者とのコミュニケーション手段は依然マス広告が中心と、昔とさして変わってはいません。

 たしかに、日本ではテレビを中心とするマス広告の波及効果は決して無視できるものではありません。しかし、時代に即したマーケティング手法を柔軟に取り入れて行きにくい背景には、そもそも論として、日本企業固有の人事制度にも原因があるのではないでしょうか。

 ゼネラリスト育成志向の人事ローテーションにより、マーケティングの責任者が当たり前のように数年で他部門に異動してしまう。こうなると、広範なスキルや経験が必要なマーケティングにおいて、企業内に一貫した戦略の継続性を保つことが難しくなります。

 その結果、日本では、企業に代わって広告会社がマーケティング戦略の継続性を請け負うという構造が出来上がってしまいました。私の経験でも、クライアント企業の担当者が毎年のように変わっても、広告会社の営業担当者は10年以上変わらず同じ製品を担当しているというケースは珍しくありません。