複数人のチームでクリエイティブな仕事を進めていく上で見過ごされがちな、「コンセプトの落とし穴」とは? 仕事に置けるクリエイティビティを阻害するものは何か? 従来型のいわゆるコンセプト運用は、往々にして「変更不可能なマニフェスト」か「後付けのPRストーリー」となってしまう。「ものづくりとものがたり」の相互作用によって、その不都合をいかに解決するか。

本連載では、東京を拠点に活動するクリエイティブイノベーションファーム、takram design engineering。Takramが、メーカ企業などとの製品開発プロジェクトを通して作り上げてきた、イノベーション創造にかかわる方法論やノウハウ、有効な手法などを紹介していく。まず最初に「ストーリー・ウィーヴィング」を紹介する。ストーリー・ウィーヴィングとは、「プロジェクトの初期に設定したコンセプトをその後も柔軟に練り直し続け、よりよいものに洗練させていく」手法である。連載前半は、ストーリー・ウィーヴィングの方法論についての概説。その後は、その他の手法、テクニックや視点を、実例を交えながら紹介していく。

従来型の「コンセプト」が抱える課題

 プロジェクトの初期段階で設定されたコンセプトと、実際に完成したプロダクトの内容が完全に一致しない……。製品開発の現場、プロダクトデザインの現場では、そのような問題に直面することが多いのではないだろうか。

 企画立案から始まり、デザイン・設計へと順を追って段階的に進行する業務においては、多くの場合、プロジェクトのどこかしらのタイミングでいわゆる「コンセプト」が設けられる。プロジェクトの最初期に設定される場合もあれば、後期の場合もある。しかしこのようなコンセプトは往々にして、下記のいずれかの道を辿ってしまう。

ケース1)プロジェクトの最初期に決定し、その後は一切手を加えてはならない「マニフェスト」となる場合

ストーリー・ウィーヴィングによる<br />製品開発の新しいかたち図1 ケース1:従来型の「コンセプト先行型プロジェクト運営」

 ケース1は、プロジェクトの最初期にコンセプトを設定し、状況に関わらず、その内容に以後一切変更を加えない、というパターンである。しかしどんなプロダクトであれ、複数の部品やサービスが一体として統合され始め、最終形態へと近づいた時点で、初めて見出される気づきというものがある。すると、最初期に設定したコンセプトが一字一句そのままの状態では成立しない、という出来事もままあるだろう。