橘玲の世界投資見聞録 2014年5月29日

「泥棒も入らない貧乏長屋」と言われた
世界で3番目に小さい国・ナウル共和国の興味深い歴史
[橘玲の世界投資見聞録]

ダミー銀行で稼いでいた

 1990年代末、ナウル・エージェンシー・コーポレーションは、住所と郵便箱以外なんの実態もないダミー銀行を少なくとも400は抱えていた。

 当時、登録料として2万5000米ドルを払えばナウルで銀行を開設でき、銀行ライセンスの更新料は毎年1000ドルで、手続きはすべてインターネットで可能だった。こうした銀行はロシアマフィアのマネーロンダリングに利用され、アメリカの金融界を揺るがすスキャンダルを引き起こした。バンク・オブ・ニューヨークの行員2人が180万ドルの報酬と引き換えに、ナウルのダミー銀行などを使った複雑な金融取引を行ない、ロシアマフィアの資金を洗浄していたことが明らかになったのだ。

 トラブルが相次いだことでナウルはOECDのブラックリストに載せられ、2004年にはすべてのオフショアバンクの免許が取り消されて金融事業は継続不可能になった。

 2002年にはナウル国のパスポートを持ったアルカイダの関係者が逮捕された。調査の結果、ナウルのパスポートは1冊あたり1万5000ドルから3万5000ドルでかなりの量が販売されていたことが明らかになった。パスポートを販売したのは中国系アメリカ人だが、その資金を追っていくと、ナウル大統領の口座に数百万ドルが流れ込んでいた。

 これをテロ支援行為と見なしたアメリカは、ナウルのドウィヨゴ大統領を呼びつけた。重い糖尿病を患っていた大統領はアメリカ到着後に心臓発作を起こし、「ナウル政府は今後、非合法な活動はしない」と書面で約束した数日後に息を引き取った。

 1990年代末にはナウルの財政は完全に破綻し、島で唯一のナウル銀行の金庫は空っぽになった。だがそれでも、銀行が倒産したわけではない。

 その結果、島民は奇妙な状況に置かれることになった。

 彼らの銀行通帳には、100万ドルを超える預金が記載されていた。銀行はいまだに営業を続けている。だから預金は失われたわけではなく、ただ窓口に行っても引き出せないだけなのだ。

ナウルへの"神風"

 2001年8月、太平洋沖を航海していたノルウェーの貨物船が、子ども43名を含む460名ものアフガニスタン人を乗せた沈没寸前の小船を救出した。ボートピープルたちはオーストラリアに向かうことを希望したため、ノルウェーの船長はそれに従った。だが保守派のハワード政権はこれを拒否し、特殊部隊を送り込んでノルウェー船を制圧した。アフガニスタンからの難民を受け入れるかどうかで、オーストラリアの国論は二分した。

 この事件が、ナウルにとっての“神風”となった。

 難民の扱いに窮したハワード政権は、ナウルに難民収容所をつくるかわりに、年間3000万オーストラリアドルの経済援助と物資の支援を約束したのだ。オーストラリア行きを希望する難民はいったんナウルの収容施設に送られ、そこで難民認定の申請をする。この「パシフィックソルーション」によってナウルは財政危機から脱し、ハワード政権は難民の人権擁護を求める批判をかわすことができた。

 この決定の直後に9.11同時多発テロが起き、ハワード政権は難民の隔離に“テロ対策”を加えて国民の理解を求めた。だがその後、ナウルに収容された難民たちの姿がテレビで放映されるようになると、経済援助と引き換えに難民を押しつける政策は野党やNGOの非難を浴び、施設は徐々に縮小していく。2005年には残っている難民が2人だけになり、07年に労働党のケビン・ラッドが首相になると施設そのものが廃止された。

 しかしここでも運はナウルに味方した。経済援助を申し出るのはオーストラリアだけではなかったのだ。

 台湾は、ナウルに唯一、正式な大使館を置いている国だ。

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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