洞爺湖サミットの主要議題となっている地球温暖化問題。その影響がすでに生態系全体に及び始めていると警鐘を鳴らす生物学者がいる。国際連合IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第3次評価報告書(2001年)に主幹著者として参加した科学者、カミール・パルメザン博士である。同博士は、蝶の6割がすでに北へ移動したと警告する。(聞き手/ジャーナリスト 瀧口範子)

Camille Parmesan(カミール・パルメザン)テキサス大学教授
Camille Parmesan(カミール・パルメザン)テキサス大学准教授

 2007年2月、国際連合のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)総会が地球温暖化の原因は人為的なものだという合意を採択してから、ようやく一般にもこの問題の深刻さが理解されるようになった。

 私はイーデス・チェッカーポイントという蝶を研究しているが、10年前、その生息の変化から温暖化の兆候を知った。正直、温暖化の影響が生態系全体に及んでいるとは、当時は思いもしなかった。

 しかし、その後何千人もの生物学者が大洋システム、熱帯システム、ツンドラシステムなどで900以上の生物の変化を報告した。私自身、主にヨーロッパに生息する57種の蝶を調べたが、その6割がすでに北へ移動していることが分かった。これは、地球上のあらゆる地域で、すべての種の生物に起こっている変化だ。

 アメリカ政府は、温暖化の認知に抵抗してきたことで知られる。温暖化対策を優先事項に挙げてきたイギリスやフランスに比べると、アメリカ政府の理解は10年以上の後れを取っていると言わざるをえない。

 原因の一つは、ブッシュ政権への移行だ。クリントン政権下のゴア副大統領は映画「不都合な真実」を制作するずっと前から科学者たちと会っていたし、クリントン政権は温暖化対策に取り組もうとしていた。ところがブッシュ政権以降、温暖化研究プログラムは骨抜きになってしまった。

 科学を軽視するブッシュ政権の宗教観や、政権内に石油産業出身者が多いことが影響したのだろう。また、アメリカ本土では温暖化の深刻さが実感できないことも背景にある。(2006年に)アラスカに行った際、気温が2~4度も上昇しているのに驚いたが、こうした変化は本土の人びとにはわかりにくい。

 しかし、そのブッシュ政権も昨年2月以降はさすがに変わった。そしてシェブロンやロイヤル・ダッチ・シェルに続いて、最後まで沈黙していた石油会社エクソンモービルも、温暖化対策に乗り出すことを表明した。下院でも、地球温暖化とエネルギー保全に関する特別委員会が組織されたが、あれは大きなステップだった。