ネットや週刊誌では「ブラック企業」「社畜」という言葉が日常的に使われ、ビジネスパーソンは様々なストレスを抱えつつも、現状を打破できない閉塞感を感じている。そのような閉塞感は、やがて「勝てない組織」「腐敗した組織」を生み出す。

 筆者は6年前に共著『不機嫌な職場~なぜ社員同士で協力できないのか』(講談社現代新書)にて、職場の人間関係の悪化による機能不全について分析した。だが、事態はそのときよりもさらに悪くなっている。

 この連載では、そうした「勝てない組織」から脱却するために必要な心理学、脳科学の知識を紹介することで、ビジネスパーソンのキャリアアップをサポートすることを目的としている。あなたの組織に「黒い心理学」は根付いていないだろうか。

そもそも「利益」の評価軸が違う?
ブラック職場を辞める人、辞めない人

前回は、銀行の秘書課という「ブラック組織」から見事大手保険会社の人事部に転職して成功したAさんの例と「居残り」を選択したBさんの例を比較し、2人のその後の人生を比較しながら、「なぜ人はブラック企業を辞められないのか」を分析した。

前回紹介したケリー氏とティボー氏が示した社会的交換理論から分析すると、Aさんは秘書課というブラック職場に居残り続けることのデメリットを、正確に分析していた。特に社会的利益を過大視せず、転職した場合の自分の将来像と比較して、転職という決断を下した。

 おさらいしておくと、ケリー氏とティボー氏の理論では、人が自分と現在勤めている組織との関係を見るときには、「4種類の利益」を意識する。

 1つ目は「感情的利益」。職場で感情的なサポートをどれだけもらっているかを指す。ブラックな職場では、サポートどころかいやがらせや叱責によって、社員の感情的利益がマイナスになっているところも多い。

 2つ目は「社会的利益」。その職場にいることで得られる、対外的な印象や社会的地位などだ。「せっかく正社員の立場にあるのだから、辞められ合い」「就職していると親や家族が安心する」という考え方も、これにあてはまる。もしかすると、「○○社の社員だと合コンでモテる」という利益まで含まれるかもしれない。