民主党政権が初の予算編成作業にてこずっている。想定したほど無駄を削れず、さりとて歳出を圧縮できず、看板政策の目的はあいまいでバラマキの色彩濃く、財政危機は深まるばかりだ。このままでは、日本国債の格付けは低下し、借金は1000兆円を超える、と井堀利宏・東大教授は警告する。

「子ども手当て“所得制限なし”は愚の骨頂。日本の借金は1000兆円を超える!」<br /> ~予算編成の迷走を井堀利宏・東大教授に聞く
井堀利宏(いほりとしひろ)
東京大学卒業、ジョーンズホプキンス大学大学院博士課程修了。財政制度等審議委員会委員。近著に『誰から取り、誰に与えるか』(東洋経済新報社)

―民主党政権の予算編成作業が迷走している。看板政策の「子ども手当て」にしても所得制限の正否を巡って揺れた挙句、鳩山首相が“所得制限なし”を決断した。

 迷走するのは、政策目的が明確ではないからだ。仮に、低所得者層が景気の低迷によって困窮し、子育てに苦しんでいるから支援をしなければならないという政策ならば、その目的に応じた「所得制限」と「支援期間」を設けるべきだろう。例えば、年収500万円以下の家庭に対して、今後2年間に渡って支給するというように、困っている人に困っている期間、集中的に支援するのだ。そうすれば、小規模の財政負担でも、それに見合った以上の効果が上げられるだろう。

―鳩山首相は、「社会が子どもを育てる」という理念を強調している。

 「社会が子どもを育てる」ことが意味するのは、少子化対策だろう。それであれば、2人目以降に支給するとか、3人目からは支給額を増やすという工夫が必要だ。子どもを一人生んだだけでは、人口減少に歯止めはかからない。2人以上で人口増加に転じる。所得制限も時限も設けず恒常的支出項目にするなら、そうしたインセンテイブが働き、社会貢献に転じる仕組みがいる。

 いずれにしても政策目的を明確化すれば、一定の財政負担範囲で効果を上げることができる。子供手当ての場合は、私が述べたどちらかを取るべきだ。財政危機の今、両方を一緒にできるはずがない。