日本社会は、世界でも稀に見る人口高齢化に直面しており、このため、経済のさまざまな側面で深刻な長期的問題を抱えている。とりわけ深刻なのは社会保障であり、現在の制度が続けば、早晩破綻することが避けられない。この連載では、人口高齢化と日本経済が長期的に直面する問題について検討し、いかなる対策が必要であるかを示すこととしたい。

2009年財政検証の問題点:
高すぎる賃金上昇率

 社会保障の中でも、とりわけ重要なのは年金だ。医療・介護も政治的に難しい問題を含んでいるが、年金は長期的に継続する制度なので、問題が厄介だ。

 年金財政に関する政府の長期的な見通しは、「財政検証」に示されている。

 これは、2004年年金制度改正により導入されたものであり、社会・経済情勢の変化に伴う要素を踏まえて財政状況を検証し、5年に一度、「財政の現況及び見通し」を作成するものだ。おおむね100年間にわたる年金財政の見通しが示されている。

 財政検証の本来の意味は、負担を所与とした場合に、どの程度の給付水準調整が必要かを客観的に示すことである。

 しかし、04年に年金制度改正を行なった際に、「100年安心年金」のキャッチフレーズの下に、所得代替率を50%に維持することを公約として掲げたため、実際の財政検証は、「50%以上の所得代替率を今後100年にわたって維持する」ことが可能であるのを示すことが目的となってしまっている。このため、以下に示すように、不自然としか言いようのない非現実的な前提を仮定して、この結論を引き出している。

 したがって、財政検証を無批判に受け入れるのでなく、その内容を定量的に検討することが必要だ。その際の最大の問題は、何が結果に大きな影響を与える変数かを見出し、それに関する仮定を現実的なものにした場合に、結果がどのように変わるかを検討することだ。

 前回の財政検証は09年に2月に公表された(平成21年財政検証結果レポート「国民年金及び厚生年金に係る財政の現況及び見通し」)。