橘玲の世界投資見聞録 2014年6月12日

「エイズの原因はHIVウィルスではない」という似非科学は
いかに生まれ、不幸を招いたのか
[橘玲の世界投資見聞録]

エイズ否認主義は、エイズ患者の救いに合致した

 エイズ否認主義が科学の世界を超えて広がるためには、一般のひとびとの支持が必要になる。

 エイズ否認主義を切実に求めるのは、当のエイズ患者やHIV陽性と判定されたひとたちだ。

 かつてほどではないとはいえ、エイズはいまでも社会的にネガティブな病だ。HIV陽性と判定されたひとはきわめて大きなショックを受け、「なぜこんなことになってしまったのか」「これからどうすればいいのか」納得できる答を探そうとする。そんな彼らが藁にもすがる思いでネットを検索すると、検索エンジンの上位に「エイズとHIVウイルスは関係ない」という記事が並んでいる。

 エイズ否認主義は、エイズについて常識とされていることがすべてウソだという。これは、追い詰められた患者・HIV陽性者の耳にはとても心地よく響く。HIVウイルスがエイズと無関係なら、陽性になってもなにも恐れることはないのだ。

 エイズ否認主義は患者に対して、エイズ治療薬を「毒物」として服用しないよう警告する。

 あらゆる薬は毒でもあり、副作用を持っている(だから処方が厳密に決められている)。初期のエイズ治療薬のなかには、きわめて強い副作用を持つものもあった。現在の抗レトロウイルス薬はかなり改善されているが、エイズ否認主義者はこうした事実をいっさい認めず、副作用の被害だけを探してきてはネット上に列挙する。

 同時に彼らは、エイズはビタミン剤など副作用のない栄養剤によって治療できる主張する(もちろんなんの医学的裏づけもない)。それはエイズ否認主義者のなかに、薬事法などの規制に触れない栄養剤をエイズ患者に売りつけて儲けている者がいるからだが、こうした事実は慎重に伏せられている。

 エイズ否認主義を信じたHIV陽性者はすべての有効な治療を拒否するため、やがてエイズを発症して死んでいく。しかしその過程で、自分の過ちを認めることはまれだ。ひとは賭け金が積み上がれば積み上がるほど、過去の選択を正当化しようとする。陰謀論に騙されて野垂れ死んでいく自分を受け入れることなどできるはずはないのだ。

 エイズ否認主義に救いを求めた患者は、このようにして病状が悪化するにつれてますます熱心な活動家になり、自分が死ぬまでのあいだにさらに多くの同調者を獲得する。皮肉なことに、彼ら自身がウイルスとなって“感染者”を増やしているのだ。

エイズが環境要因による発症だと都合のよいひとびと

 エイズ否認主義を擁護する第二のグループはキリスト教原理主義などの頑迷な保守派だ。彼らは、エイズは同性愛や放埓な性生活、ドラッグなど不道徳な生活に対する神の罰だと考えている。

 これは、ウイルスという目に見えない脅威への本能的な恐怖の表われでもある。

 エイズの原因がHIVウイルスなら、なんらかの経路を辿って自分や家族も感染する怖れがある。だが環境要因によってエイズを発症するのなら、道徳的な生活を送っている自分たちはぜったいに安全だ。彼らは、エイズという「道徳的な病」を自分たちから隔離するためにエイズ否認主義を求めるのだ。

 こうして保守派は、ドラッグ常用者に注射針を無償で配布するという、医学的には効果が明らかな感染対策に反対する。エイズの原因はウイルスではないのだから、ドラッグを常用する不道徳な人間のために税金を使う必要はいっさいないのだ。

 このようなエイズ否認主義者を生み出すゆたかな土壌が陰謀論だ。

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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