橘玲の世界投資見聞録 2014年6月12日

「エイズの原因はHIVウィルスではない」という似非科学は
いかに生まれ、不幸を招いたのか
[橘玲の世界投資見聞録]

 日本にかぎらず、世界じゅうに「この世はすべて陰謀で動いている」と信じているひとたちがいる。エイズに対する陰謀論でもっとも有名なのは、それが自然発生したのではなくCIAなどの政府機関によって開発された生物兵器だというものだ。

 こうした説が唱えられるようになったのは、HIVウイルスが発見された経緯にある。

 HIVウイルスは1983年から84年にかけてフランスのパスツール研究所と、アメリカ国立衛生研究所のロバート・ギャロによって相次いで分離・発見された。このときギャロはウイルス発見の第一号となるべく、所属するアメリカ国立衛生研究所とともにさまざまな画策を行なったとの疑惑が持ち上がり、そこから政府機関関与説へと拡張されていったようだ。

 その後、アフリカでエイズが爆発的に広まると、「エイズウイルスは黒人を絶滅させるために開発された」との陰謀論が唱えられるようになる。ハーバード大学の心理学者の調査によると、アメリカの黒人(アフリカ系アメリカ人)の3分の2が政府はエイズについてほんとうのことを語っていないと考え、16%がエイズは黒人の人口を抑制するために政府がつくり出したものだと信じ込んでいた。

 ところでエイズ陰謀論では、当局や専門家の公式見解は不都合な真実を隠蔽するためのつくり話だとされるが、HIVウイルスの存在自体が否定されているわけではない。それがなぜ、(エイズの原因はHIVウイルスではないという)エイズ否認主義と結びつくのだろうか。

 それは「否認主義」というものが、その名のとおり、「否認すること」を自らのアイデンティティ(存在理由)にしているからだ。彼らの唱える大義とは、隠された真実を世に知らしめることだ。その正義を共にしている以上、真実の内容(HIVウイルスがエイズの原因かどうか)はどうでもいいのだ。

似非科学の擁護が引き起こした悲劇

 では最後に、エイズ否認主義という似非科学を擁護することがどのような結果を招くかを見てみよう。

 ネルソン・マンデラの後任として南アフリカ大統領となったタボ・ムベキはイギリスの名門サセックス大学で経済学の学位を取得したきわめて聡明な人物だが、あるときインターネットを検索していてエイズ否認主義のサイトにたどり着き、強い関心を持つようになる。

 ムベキはそれまでずっと、アフリカが“エイズの温床”として批判されるのが我慢できなかった。そこには「アフリカ人の生活態度が不道徳で遅れているからエイズが蔓延して世界に迷惑をかけている」という悪意が隠されているのだ。

 そんなムベキにとって、「エイズの原因はHIVウイルスではなく貧困のような環境要因だ」というエイズ否認論者の主張はきわめて“政治的に正しい”ものだった。こうしてムベキは、大統領エイズ諮問委員会を2000年に発足させたとき、その約半数をデューズバーグをはじめとするエイズ否認主義者にするという「政治的英断」をする。


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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