橘玲の世界投資見聞録 2014年6月12日

「エイズの原因はHIVウィルスではない」という似非科学は
いかに生まれ、不幸を招いたのか
[橘玲の世界投資見聞録]

 ムベキは、エイズ否認主義を全面的に受け入れたわけではない。彼の態度は“良心的知識人”と同じで、「異論にも誠実に耳を傾けるべきだ」というものだった。

 エイズの専門家と否認主義者が諮問委員会で“対等に”議論する効果は絶大なものがあった。エイズ否認主義は、とうとう国家が公認する“科学”に格上げされたのだ。

 アパルトヘイト時代の南アフリカでは、少数派の白人政府が秘密裡に生物兵器開発計画を進めているとの噂が広まっていたが、後にこの噂は事実であることが判明する。アパルトヘイト政権は、黒人がちからを持ちすぎた場合に備え、特定の人種のみに威力を発揮する細菌や毒物、大量断種の技術研究を行なっていたのだ。

 南アフリカの不幸は、こうした“事実”によってエイズ否認主義が受け入れられやすい土壌があったことだ。その結果、いかなる事態が起きたのだろうか。

 ムベキ政権の保健相は、抗レトルウイルス薬には副作用があるとして、エイズ患者の治療と、(母子感染をほぼ完全に予防できることが実証されているにもかかわらず)HIVに感染した女性への使用を許可しなかった。その代わり、エイズには栄養面から取り組むべきだと述べ、否認主義者が販売するビタミン剤を推奨したのだ。

 こうして南アフリカでは、1日にほぼ800人がエイズで死亡し、1000人が新たにHIVに感染し、産婦人科を訪れた妊婦の3割がHIV検査で陽性と診断されるようになった。NGO団体は、ムベキの“エイズ否認主義”によって助かるはずの多くの生命が失われたと批判している。彼らが推定するその数は200万人だ。

 このとてつもない災厄が、“善意”や“正義”によって似非科学を擁護したことの代償なのだ。
 

   

 <執筆・ 橘 玲(たちばな あきら)>

 作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 究極の資産運用編』『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券編』『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』(以上ダイヤモンド社)などがある。

最新刊『タックスヘイヴン TAX HAVEN』(幻冬舎)が発売。

ザイ・オンラインとの共同サイト『橘玲の海外投資の歩き方』にて、お金、投資についての考え方を連載中。

 
『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル 』

 

作家・橘玲が贈る、生き残りのための資産運用法!

アベノミクスはその端緒となるのか!? 大胆な金融緩和→国債価格の下落で金利上昇→円安とインフレが進行→国家債務の膨張→財政破綻(国家破産)…。そう遠くない未来に起きるかもしれない日本の"最悪のシナリオ"。その時、私たちはどうなってしまうのか? どうやって資産を生活を守っていくべきなのか? 不確実な未来に対処するため、すべての日本人に向けて書かれた全く新しい資産防衛の処方箋。

★Amazonでのお求めはコチラをクリック!
★楽天でのお求めはコチラをクリック!

海外投資必勝マニュアル&本

海外投資のノウハウが凝縮! ここで紹介しているコンテンツ、書籍はすべて、ネットから購入が可能です。さらに「海外投資実践マニュアル」は「海外投資を楽しむ会」の会員になれば割引価格で購入可能です。

作家・橘玲のディープなメルマガ
発売即重版決定! 橘玲の最新刊【幸福の「資本」論】発売!
橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
橘玲×ZAiONLINE海外投資の歩き方
作家・橘玲がメルマガ配信を開始!
subcolumn下影

ページのトップに戻る

本WEBサイトに掲載している全ての記事およびデータについて、その情報源の正確性・確実性・適時性を保証したものではありません。本サイトの提供情報を利用することで被った被害について、当社および情報提供元は一切の責任を負いませ ん。万一、本サイトの提供情報の内容に誤りがあった場合でも、当社および情報提供元は一切責任を負いません。本サイトからアクセス可能な、第三者が運営するサイトのアドレスおよび掲載内容の正確性についても保証するものではなく、このような第三者サイトの利用による損害について、当社は一切責任を負いません。また、併せて下段の「プライバシーポリシー・著作権」もご確認ください。