2012年4月、高額所得者であるお笑い芸人の母親が生活保護を利用していたことをきっかけとして、親族の扶養義務に関する関心が高まった。2014年7月1日の改正生活保護法施行を前に、扶養義務はどのように取り扱われているだろうか? 大阪市住之江区の「35年間音信不通だったDV加害者の父親の扶養を求められた」という事例を題材として、扶養義務の強化が何をもたらすかを見てみよう。

生活保護申請の「要件」ではない
親族による扶養(仕送り)

前回は、現在の大阪市の生活保護行政の問題点として

1.ケースワーカー不足
2.強引な「助言指導」
3.扶養義務者に対する扶養の要請
4.高齢者の住宅改修費用等の自弁要求
5.安易な「不正受給」摘発

 の5点を挙げた。

 どの点も大きな問題なのだが、今回は、扶養義務者に対する扶養の要請が大阪市で現在どのように行われているかについて、2014年5月28日、筆者が「大阪市生活保護行政問題全国調査団」の調査・交渉に同行した際の記録から紹介する。

 事例を紹介する前に、2014年7月1日から施行される改正生活保護法で、親族による扶養義務がどう規定されているのかを確認しておこう。

 まず、扶養義務者への通知・調査に関する規定が新設されている。

(申請による保護の開始及び変更) 第二十四条
8 保護の実施機関は、知れたる扶養義務者が民法の規定による扶養義務を履行していないと認められる場合において、保護の開始の決定をしようとするときは、厚生労働省令で定めるところにより、あらかじめ、当該扶養義務者に対して書面をもつて厚生労働省令で定める事項を通知しなければならない。ただし、あらかじめ通知することが適当でない場合として厚生労働省令で定める場合は、この限りでない。

 ここに「あらかじめ通知することが適当でない場合」が存在することを念頭におき、「民法規定による扶養義務」の範囲を確認しておこう。

 未成熟の子どもに対する親・夫婦間には「生活保持義務(最後のパンの一切れまで分け合うべき強い扶養義務)」、直系血族ときょうだいに対しては「生活扶助義務(もし自分自身の生活を犠牲にせず扶養が行えるのであれば、扶養すべきという弱い扶養義務)」が定められている。特別の事情がある場合に限り、家庭裁判所は三親等内の親族に扶養を求めることもできる。

 そして、それらの扶養義務者に対しては、福祉事務所は調査・報告を求めることが可能である。

(報告、調査及び検診) 第二十八条
2 保護の実施機関は、保護の決定若しくは実施又は第七十七条若しくは第七十八条の規定の施行のため必要があると認めるときは、保護の開始又は変更の申請書及びその添付書類の内容を調査するために、厚生労働省令で定めるところにより、要保護者の扶養義務者若しくはその他の同居の親族又は保護の開始若しくは変更の申請の当時要保護者若しくはこれらの者であつた者に対して、報告を求めることができる。

 現在も「生活保護申請者が夫によるDVから逃げてきた被害者である」など若干の例外を除き、生活保護を申請すると、親族に対して「ご親族の◯さんが◯市で生活保護を申請しています」という通知が行われる。保護開始の前には、扶養できるかどうかに関する問い合わせ(扶養照会)も行われる。ただし、扶養が可能でない・扶養したくないのであれば「扶養できません」と回答すれば済む。

 この点に関しては、国会で政府側が何度も「現行の取り扱いは変えない」と答弁している。

 では、扶養義務者は実際にはどの程度の費用負担を求められ、実際に徴収されることになるのだろうか? これに関しては、改正生活保護法も現行生活保護法と同じである。