アラブ 2014年7月14日

教えて! 尚子先生
イスラム教・スンニ派とシーア派の違いは何ですか?【中東・イスラム初級講座・第9回】

スンニ派政権にとって「脅威」となった貧困するシーア派

 では、シーア派とスンニ派では、信仰上の儀礼において違いはないのでしょうか?

 スンニ派もシーア派も断食、巡礼、礼拝などの方法に違いはほとんどありません。イスラム教の異端とされるアラウィー派やドルーズ派のように、巡礼や断食は行なわないといった明らかな違いは見受けられません。あるとすれば、シーア派では殉死したフセインを追悼するために、アーシューラ―と呼ばれる宗教行事があったり、シーア派の聖人の墓(聖者廟)を詣でるといった習慣が見られます。また、偶像崇拝を厳しく禁止するスンニ派に対し、4代目カリフのアリー(シーア派にとっては初代イマーム)など、イマームの肖像画などを掲げることもあります。

 ですが、イスラム教徒ではない私たちからみれば、宗教指導者でもない限り、基本的に外見や行動からシーア派とスンニ派を区別することは難しいでしょう。日常生活において、シーア派であるか、スンニ派であるかを問われるような場面もほとんどありません。日本に来た私のイスラム教徒の友人は「なぜ日本人は、私がスンニ派かシーア派か尋ねるのですか? アラブ人同士で、そんな質問をされたことは今までありませんが、なぜ気にするのですか?」と尋ねられたほどです。

 では、なぜ、現在、シリアやイラクなどでは、シーア派とスンニ派が対決しているのでしょうか? 宗教的正当性を巡って、争っているのでしょうか? もちろん、そうではありません。

 シーア派が問題視されるようになったのは、イラン革命以後といってもよいでしょう。イランの対岸にある湾岸諸国は、国内に多数のシーア派の住民が存在しているために、イランが革命の「輸出」をして現政権の転覆を図るのではないかと危惧しているのです。

 現在、イラン、イラク、バハレーン、アゼルバイジャンでは、スンニ派の住民よりもシーア派人口のほうが多くなっているといわれています。ですが、それ以外にもシリア、レバノン、湾岸諸国、イエメン、アフガニスタンなどにもシーア派の人々は多数、存在しています。この中でイランにおいてのみ、シーア派が政権をとり、国家を運営していますが、それ以外の地域で政権を握っているのは、ずっとスンニ派でした(イラクは現在の政権のみシーア派で、それ以前はすべてスンニ派)。

 政権を握っているスンニ派に対して、シーア派はたとえ数の上で優っていたとしても、政治的には少数派となっています。そのため、国民国家建設の過程で富の分配にうまくあずかれず、貧困層となってしまっている場合が多いのです。この現象は、レバノンやイラク、バハレーン、湾岸諸国でも同様の現象がみられます。

 つまり、シーア派がスンニ派と対立するのは、シーア派だからという宗教的理由からではなく、経済的・政治的に劣位に立たされている現状を打破するために、団結して反政府活動を行なっているといえるでしょう。だからこそ、スンニ派の政権にとって、シーア派は「脅威」となっているのです。その結果、政権側のバランスのとり方次第では、現在のイラクのように、シーア派とスンニ派が戦うという、いわゆる「宗派対立」の図式に発展する結果を招いてしまうのです。

サイエド・ザイナブ・モスク(シーア派聖人の廟)=シリア:ダマスカス【撮影/安田匡範】

 

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(文:岩永尚子)

著者紹介:岩永尚子(いわなが・なおこ)
日本では珍しい女性中東研究家。津田塾大学博士課程 単位取得退学。在学中に在ヨルダン日本大使館にて勤務。その後も専門のヨルダン教育現場のフィールド ワークのために、スーツケースを抱えて現地を駆け回る。2012年まで母校にて非常勤講師として「中東の政治と経済」を担当。現在は名古屋にて子育て奮闘 中。「海外投資を楽しむ会」最初期からのメンバーでもある。

 


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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