政府が6月に発表した「成長戦略」では、「岩盤」の一つと言われる農業にも踏み込んだ。ここでは農業分野の規制緩和のうち「企業による農業生産法人への出資規制緩和」を取り上げる。今回の規制改革によって、企業が農業に参入しやすい状況はかなり整ったと評価できるが、農業が活性化するかどうかは、農村地域・企業双方の意識改革がカギを握っている。

風穴が空いた農業の岩盤規制

【農業分野(1)】<br />参入の規制緩和によって生まれる<br />新たなビジネスの形とは<br />――日本総合研究所主任研究員 三輪泰史みわ・やすふみ
東大農学部卒、東大大学院農学生命科学研究科農学国際専攻修了。現在、日本総合研究所創発戦略センター主任研究員、農業チームリーダー。農産物のブランド化に関するベンチャー企業の立上げに参画。主な著書に『グローバル農業ビジネス』、『次世代農業ビジネス』(以上、日刊工業新聞社)、『甦る農業―セミプレミアム農産物と流通改革が農業を救う』(学陽書房)ほか。

 アベノミクスの第三の矢の一貫として、「新たな成長戦略」と「骨太の方針」が発表された。成長分野の一つとして位置付けられている農業においては、「企業による農業生産法人への出資規制緩和」や「JA全中の自律的新制度への移行」が注目を集めている。今回はまず農業生産法人の規制緩和に焦点を当てる。

 日本農業は長期間にわたり衰退傾向が続いてきた。農業産出額は10兆円を大きく割り込み、8兆円台にまで減少し、農業が基幹産業である地域では活力が削がれてしまっている。農業衰退の象徴的な減少として、離農者の増加と耕作放棄地の増加が挙げられる。

 離農者の増加により、販売農家数は1990年の半数程度にまで急速に減少している。儲からない農業では後継者の確保が難しく、農業の担い手不足が深刻化している。今後の農業生産の維持、回復のためには、若年層を中心とした新規就農増加が不可欠である。新規就農者が始めから単独で農業を始めるのは難しいため、農業法人や農業参入企業が新規就農者の受け皿になることが期待されている。

 また、離農者増加に伴い、耕作放棄地面積が増加しており、それは滋賀県の面積と同程度の39.6万haとなっている。特に、土地持ち非農家(農業を行わない農地の所有者。遺産相続等で農地所有しているケースが多い)での増加が顕著で、この20年間でおよそ3倍となっている。 このような厳しい環境の中、新規就農者と農地の受け皿となる新たな中核プレイヤーとして、政府は農業法人や農業参入企業を大幅に増やそうとしており、経済界の農業参入に対する注目度が高まっている。