「あり得ないだろう。そもそも議論する価値があるのだろうか?」

 2004年の秋、デロイトのニューヨーク事務所に6ヵ国から集まったメンバーの口から出た言葉である。

 筆者が所属するデロイト トウシュ トーマツ(DTT)では、中期経営計画である「Deloitte 2010」を立案するために、「戦略のパラドックス」の著者であるレイナーの手法を採り入れ、複数のシナリオを各グループに分かれて検討した。

 今回は、その時の経験を例に採り上げ、「中核戦略を導き出す過程」を説明したい。

エンロン事件の発生により
業界存亡への危機感が募る

 グローバルに事業を展開している大手会計事務所グループは、5つあった。ところが、エンロン事件によりアンダーセンが02年に解散に至り、現在の4社体制(DTT、PWC、KPMG、E&Y)へ移行した。

 エンロン事件を受けて、米国では02年7月に企業改革法が可決(翌年施行)された。同法律では、監査を提供している企業に対して、同時提供ができないサービスが定義された。

 たとえば、会計システムの構築、記帳代行、資産の鑑定など、自己監査にあたり、監査の独立性を阻害する恐れのあるサービスである。

 同様の法律は、欧州や日本でも採用されつつあり、DTTにとって2010年までの数年間は市場の不確実性が極めて高い期間であった。

 DTT以外の3社は会計システムの構築で収益を上げていたコンサルティング会社を分離した。それに対してDTTは、法令厳守を前提の上で、会計、税務、ファイナンシャルアドバイザリー(FAS)、コンサルティングを組み合わせて、顧客にとって価値あるプロフェッショナルサービスを提供するというビジネスモデルを採用したため、なおさらである。