激しい雇用調整が進むなかで、「ワークシェアリング」がにわかに脚光を浴びている。労使あるいは社員同士が痛みを分かち合い、雇用を維持する助け合いのモデルとして、導入のための具体策を検討すべきだという指摘がさまざまになされている。大手新聞の社説も雇用問題解決の糸口になりえるとこぞって取り上げ、工夫次第では正規社員と非正規社員の格差まで是正できる可能性にすら言及している。

 だが、立場の異なる人々が救いを求めるかのごとくに賛意一色に染まる主張や制度ほど、落とし穴が隠されているものである。順を追って考えてみよう。

 不況で需要が大きく減退し、企業は生産調整をしなければならなくなった。仕事が減るのだから、経営者は二つの対応策を考える。第一に、雇用を削減する。第二に、雇用総数を維持する一方で、「時短」を導入する。「時短」をしたならば、その分を「賃金カット」したい。

 今回の世界同時不況による売上急減に対して、経営者たちはまず、派遣切りという第一の策を採った。さらに、ソニーや三洋電機のように、正社員の削減に踏み込むと明言している企業も少なくない。  

 他方、派遣を切った後、トヨタ自動車は第二の策を採用した。国内全12工場で操業停止する計11日間のうち2日間を休業日とし、労使はこの日の賃金を2割カットすることに合意したのである。この第二の策を、今日本ではワークシェアリングと呼んでいる。ちなみに、トヨタは過去に行った操業停止では、賃金は全額支払ってきた。今回は当然のように賃金カットに踏み込んだ。

 つまり、年初から御手洗冨士夫・経団連会長を初め経営者たちの多くがワークシェアリングに言及してきたのは、これまでは派遣などの非正規社員を中心に雇用調整してきたが、これからは何らかの形で正社員にも波及せざるを得ないという警告であった。そこには、正社員削減を明言している会社も少なくないのだから、削減されるのが嫌なのなら「時短」と「賃金カット」をセットで受け入れよ、というメッセージが込められていたのである。