人民元を国際通貨に <br />国際的な新銀行設立に動く中国の思惑<br />――大和総研シニアエコノミスト 齋藤尚登ブラジル・フォルタレザで開かれたBRICS首脳会議。左からインド・モディ首相、ブラジル・ルセフ大統領、中国・習近平国家主席。この会議でBRICS5ヵ国は新開発銀行の設立を決定した。Photo:ロイター/アフロ

ブラジルのフォルタレザで開催された第6回BRICS首脳会議では、BRICS5ヵ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)を中心とする新開発銀行の設立が決定された。さらに中国は、アジアインフラ投資銀行の設立を目指している。戦後の国際金融体制は長きにわたって、欧米日を中心に形成されてきており、今回の中国の動きはドル基軸通貨体制への挑戦とも受け止められかねない。背景に潜む中国の思惑に迫る。

BRICSを中核とする新開発銀行の狙い

人民元を国際通貨に <br />国際的な新銀行設立に動く中国の思惑<br />――大和総研シニアエコノミスト 齋藤尚登さいとう・なおと
1990年立教大学文学部卒業。山一証券経済研究所勤務。1994年~1997年香港駐在。1998年大和総研入社。2003年~2010年北京駐在を経て、2010年6月より現職。担当は中国経済、中国株式市場制度。近著に「最新中国金融・資本市場」(金融財政事情研究会、2013年)、「習近平時代の中国人民元がわかる本」(近代セールス社、2013年)、「中国資本市場の現状と課題」(資本市場研究会、2013年、いずれも共著)。

 2014年3月に開催された第12期全国人民代表大会(全人代=日本の国会に相当)第2回会議では、李克強氏が首相に就任して初めての政府活動報告を行った。

 2014年7月15日に、ブラジルのフォルタレザで開催された第6回BRICS首脳会議では、新開発銀行の設立が決定された。これは、中国、ブラジル、ロシア、インド、南アフリカが創始国として参加し、途上国支援を目的とする。

 正式名称をBRICS銀行ではなく、新開発銀行(New Development Bank)としたのは、トルコ、メキシコ、インドネシア、ナイジェリアなど他の新興国が後日、参加することを想定しているためである。今後、他国にも出資の機会が与えられるが、BRICS5ヵ国の出資比率は55%を下回らないとされる。本部は中国上海市に置かれ、資本金は1000億米ドルに設定。払込資本金の500億米ドル分はBRICS5ヵ国が100億米ドルずつ出資する。総裁などの要職は5ヵ国が持ち回りとし、初代総裁(任期5年)はインドから選出される。南アフリカのヨハネスブルグにはアフリカ地域センターが設けられる。

 中国の政府系シンクタンクへのヒアリングによれば、新開発銀行設立の経済的目的は、①長期的なインフラ整備プロジェクトへの資金提供、②貿易や金融面での関係強化と途上国支援、などであり、BRICSそれぞれの自国通貨建て決済や投融資の拡大、債券発行など資本市場での相互協力が念頭に置かれている。さらに、新開発銀行設立の戦略的目的は、欧米主導で確立した国際金融秩序(世界銀行やIMF=国際通貨基金が主導する国際金融の枠組み)に対抗できる組織を作り、新興国の発言力を高めることである、としている。